
BA609とV-22
不死鳥となれ、ティルトローター機 ティルトローターは、軍用型V-22オスプレイが4月末には試験飛行を再開することになっていた。その予定が1か月もすぎて、まだ飛んだというニュースが聞こえてこないのは、いささか気がかりである。それとも公表せずに、密かに飛んでいるのであろうか。
以下の文章は1か月ほど前に書いて、『航空情報』7月号に掲載されたものだが、ここに再掲しておきたい。
先月号で民間型ティルトローター機、BA609の開発が中止になるかもしれないと書いたところ、その直後にベル社から中止したわけではないという声明が出された。
それは別掲のとおり、ジョン・マーフィ会長による3月18日付けの発表で、「BA609計画について率直に表明したい。先ず、計画はキャンセルになったわけではない」というのが第一声である。ただし「開発作業を遅らせ」ることにしたのは事実である。では、なぜ遅らせるのか。「V-22がティルトローターの技術開発に関する先鞭をつけ、しかるのちにBA609の型式証明取得に関する試験をはじめるのが順当」だからと説明している。
次に、その開発延期を誰が決めたのか。マーフィ会長によれば「BA609の開発作業を遅らせたのは、自分自身の決断である。親会社テキストロンからの指示ではない」と述べている。
依然として懸念の論調 しかし、こうした声明に対するジャーナリストたちの反応は必ずしも一筋縄ではない。
たとえば、マーフィ会長は「BA609の開発が1996年に始まったとき、そのスケジュールはV-22の開発計画の後を追う形で進める予定であった」。つまりBA609は初めからV-22の後を進むことになっていたというが、本当だろうか。というのはV-22が飛行停止になって以来、ベル社はそれとこれは違うとしてBA609の開発をつづけ、現にこの夏にも初飛行を予定していたではないかというのである。
また、今回の開発延期について、マーフィ氏は自分自身の決断としているが、果たして本当か。テキストロン社にあって傘下の航空関連企業――ベル、セスナ、ライカミングの3社を統括するラッセル・メイヤー氏は、BA609が複雑でコストがかかり、その割には座席数が少ないというので、前々から開発には乗り気でないといわれてきた。とすれば、やはりこの人の指示があったのではないかという見方もある。
さらにV-22のこれまでの飛行停止と今後の試験飛行は、長期にわたって量産作業を中断させ、海兵隊への製品納入ができなくなり、収入もなくなる。そのためベル社としては資金的な不足が生じ、そのことがBA609の開発日程を遅らせることになったのではないかという見方も出ている。
いずれにせよ、こうした論調はティルトローターの将来に懸念を示すものといえよう。
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本年末には初飛行を計画 けれども、私自身は余り憶測をめぐらすことなく、マーフィ会長の声明またはベル社の説明をそのまま素直に受け取ればいいのではないかと思う。たしかに製品開発の遅れが事故に起因することは、ベル社にとって名誉なことではない。V-22の事故も、いかに軍用機とはいえ、社会的な問題がないわけではあるまい。
しかし、この声明はそのことを率直に述べて、隠そうとはしていない。そのうえでティルトローターの安全性が確認されるのを待って、BA609の作業をに取りかかろうというのである。仮にV-22の問題があやふやのまま民間機が完成しても、それを買ったり使ったりする人は多くはないであろう。
余談ながら、言わずもがなをつけ加えるならば、わがMH2000はどうなったのだろうか。すでに型式証明も交付されて実用飛行がはじまっていた。ところが、いったん事故が起こるや飛行停止のままで1年半が経過した。この状況は、少なくとも表面的にはティルトローターと似たところがある。
しかるに、具体的な事情は何にも聞こえてこない。原因は何だったのか、どんな対策を取るのか、今後の計画はどうなっているのか、それとも止めてしまうのか。
ベル社を見習えとはいわぬが、できれば率直な事実を明かして貰いたいし、何らかの説明をすべきであろう。部外者を無視して妙に隠したりすると、却って揣摩憶測を生みやすい。それに関係者の知人が多いだけに、私は挨拶に困るのである。
話を戻すと、マーフィ会長は「本年末までにBA609を飛ばす計画」と表明している。V-22オスプレイの試験飛行は、この4月から再開されるもようで、本誌発売の頃には飛んでいるはずだが、今後は1年半をかけて1,800時間を飛ぶという。そのうち最初の半年間で安全性が確認できるかどうか分からないが、年末には何とかBA609を飛ばしたいというのであろう。
開拓者の苦難は大きい 逆に、ティルトローター懐疑論者のオルドリッジ国防次官(調達・技術担当)は、V-22について「試験飛行の早い段階で何か不具合が見つかれば、われわれは飛行の継続を取りやめ、計画を中止して別の方向へ向かうことになるだろう」とまで言明している。
この状態では、BA609の型式証明取得の時期も、いつになるかはっきりしない。そうなると、80機を発注している顧客がいつまで待ってくれるかという不安も出てくる。
しかしティルトローター機は、航空の世界に全く新しい可能性をもたらすものである。それだけに開拓者の苦難も大きい。多少の遅れはやむを得ないであろう。私は、BA609もV-22オスプレイも、そしてMH2000も、不死鳥となって立派に成功することを念じている。
(西川渉、『航空情報』2002年7月号掲載)
【関連サイト】
<垂直レポート>ティルトローターの運命(
2002.4.22)
<緊急レポート>どっこい、BA609は生きている(
2002.3.25)
<HAIレポート>本当に夢幻だったのか(
2002.3.22)
<緊急レポート>BA609ティルトローター開発中止か(2002.3.18)
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