<ヘリエクスポ2004>

鹿を逐う欧州勢

 

 中国古代史にいう「中原」とは黄河中流域にあって、文明発祥の地である。ここに領土を持つことは、即ち天下に覇をとなえることであり、その地位(王位)を得るために争うことを「中原に鹿を逐う」と言った。

 今、世界のヘリコプター界の中原はアメリカであり、鹿はホワイトハウスといえないだろうか。先月のHAI大会で感じたのは、欧州のメーカーがこぞってアメリカ市場をめざしていることである。とりわけホワイトハウスに入って大統領専用機の地位を得ることは、まさしく天下に覇をとなえることといえるかもしれない。

 その大統領機をねらって、はるばる欧州から攻め上ってきたのがEH101である。迎え撃つのはシコルスキーS-92。両者は今ワシントンで激しい火花を散らしている。

 ここで苦しいのはEH101であろう。あれは血筋が違うといわれては覇者として立てないため、初めから勝ち目がない。というので名前もアメリカ風にUS101と改め、その中身も心臓、筋肉、皮膚など体躯のほとんど全てをアメリカ製品で仕立て直すことになった。

 そのためロッキード・マーチン社と組み、ベル・ヘリコプターやカマン・エアロスペースなど多数の米メーカーを糾合して、全体の9割以上を米国製とすることにした。最終的な製造組立もベル社のアマリロ工場でおこなう計画である。


米大統領機をねらうEH101改めUS101

 大統領機ばかりではない。今アメリカでは本土防衛策の強化が急速に進んでおり、その中心にある本土安全保障庁(HSA)を初め、沿岸警備隊、連邦危機管理局(FEMA)、そして全米各地の警察、消防、救急などの緊急機関がいっせいにヘリコプターの増強をはかり始めた。

 その一つ、入国管理局は100機程度の小型ヘリコプターを導入すると見られている。また税関国境警備局は、小型双発ヘリコプター30機以上の調達計画を明らかにした。これには米国製ヘリコプターばかりでなく、欧州からA109やEC135も提案されている。

 沿岸警備隊(コーストガード)は、これまで使ってきたHH-65ドーファンのエンジンを、旧ライカミングLTS-101からターボメカ・アリエルに換装することになった。このフランス出身のエンジンも、テキサス州で製造されている。

 イタリア・アグスタ社はかねてベル・ヘリコプター社の協力を得てAB139を開発してきた。その結果、同機は昨年末から量産機の引渡しがはじまったが、HAI大会ではテキサス州アマリロのベル社工場にも第2の生産組立ラインを設置すると発表した。2006年から操業の予定で、これも沿岸警備隊と軍の採用をめざしている。なおアグスタ機はすでに8機のA109が米沿岸警備隊で飛んでいる。


軍用機として提案されているAB139(HAI会場で見た模型)

 この計画とは別に、アグスタ社はA119コアラ単発タービン機の製造をフィラデルフィアでおこなうこととし、工場建設がはじまった。コアラは最近、アメリカの警察や救急によく使われるようになり、今後さらに増えると見られるところから、米国内での製造に踏み切ったもの。今年夏から年間20機ずつ生産する計画である。


A119コアラ

 ユーロコプター社もかねてからテキサス州に工場を置いてAS350などの製造組立をしてきた。その工場を、今年からミシシッピ州に移して規模を拡大、米国での生産態勢をいっそう強化しつつある。上記HH-65のエンジン換装も新しい工場でおこなう。

 なお米国市場でのユーロコプター機のシェアは49%で、米国勢を抑えてトップに立っている。


吊上げホイストで救助活動をするAS350B3

 最近、米陸軍のコマンチ武装偵察機の計画が中止になったが、ユーロコプター社はタイガー攻撃機を代替機として提案している。同じようにアグスタ社もA129マングスタ攻撃機を提案しているが、ここにも中原をめざす欧州勢のすさまじい意欲がうかがえる。このような動きを一表にすると次のようになる。

 欧州勢のこうした動きに対して、アメリカ側も黙って見過ごすわけにはいかない。ベル社はHAI大会で、短期的な計画として新しいモデル427IFRの開発を発表し、長期的な戦略構想MAPL開発計画を明らかにした。MAPLについては本頁でも先にご紹介した通りである。


欧州勢を迎え撃つベルMAPL構想

 またシコルスキー社は新しいS-92の量産態勢がととのい、このHAI大会で初号機をPHIに引渡した。S-76についても、昨年来1年余の間に100機を超える注文を受けて気を吐いている。

 米国ヘリコプター市場の中原をめぐる派遣争いは今後ますます激しくなってゆくだろう。


HAI大会でシコルスキーS-92初号機の引渡し。
さっきまで機体のまわりに浮いていた多数の風船を
スイッチひとつで破裂させたため、足もとに破片が散らばっている。

西川 渉、2004.4.16) 

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