
マリーンワン書簡
――英首相から米大統領へ―― 昨日の本頁「戦争する理由」で、イギリスがここまでアメリカに協力するのはEH101を買って貰いたいからではないかという冗談を書いたが、今日それが冗談ではない証拠を見つけた。それはブレア首相からブッシュ大統領宛の今年1月27日付の書簡である。
「親愛なるジョージ。EH101という大変すぐれたヘリコプターにお目を留めていただきたい。われわれは貴国が海兵隊の運航する政府高官用の乗用機『マリーンワン』の取り替えを検討中と承知しております。そこでEH101が対象となり、採用されるならば、その内容の少なくとも65%は米国製とすることを約束します」
そのうえでイギリスの首相は、このヘリコプターは3発機でもあり、米メーカーの同級機とくらべて「安全性と信頼性」が高いと念を押し、米空軍の戦場での捜索救難機としても最適であるとつけ加えている。とりわけ、「本機は英空軍も採用しておりますから、将来共同作戦の遂行に当たっては相互の利便性が高いでしょう」と。
最後に「この、すぐれた実績を持つ実証ずみの製品について、好意的に検討していただくことを希望します」と結び、「永遠の友、トニー」と署名している。
米大統領専用機の塗装をしたEH101改めUS101このような書簡は今後、大統領機の選定にあたって政治的な影響力を持つことになろう。競争相手はシコルスキーS-92である。もとよりシコルスキー社の方も黙ってはいない。「コネチカット・デレゲーション」と呼ばれる有力な上院議員グループを使って大統領への売りこみを進めている。
そのうえ米軍は外国製の航空機など、これまで買ったことはない。そのような鉄壁の牙城、すなわちホワイトハウスにブレアの明るい楽観的な英米同盟関係がどこまで食いこめるか、注目してよいであろう。
ところで、こんな書簡を日本の首相も書くのだろうか。日本の役人の決まり文句は「一企業のために加担するようなことはできない」という。そのくせ陰に回っては、政治家も同じく「一企業のために」さまざまな工作をしてはワイロを取っている。そのことは、いつまでたっても贈収賄の犯罪がなくならないことでも明かだろう。
とすればイギリスの首相も、こんな書簡を書いてワイロを取ったのだろうか。多分そうでないことは、このニュースが裏話といったことではなくて、ごく普通のニュースとして扱われていることでも想像できよう。シコルスキー社の応援をしている「コネチカット・デレゲーション」も、ニュースの中には2人の上院議員の名前が出ていた。
つまり、このニュースが犯罪やスキャンダルを報じたものではないことからすれば、英米では政府や議員が堂々と「一企業のために」働きかけをしているのである。無論この働きかけは、英米の輸出競争からすれば、それぞれの国益にかなうことであって、一見して一企業のためのように見えるが、最終的には国家のためになるという考え方かもしれない。しかもワイロを取っていないから、堂々たるものである。
外国のことはさておき、日本の贈収賄は、国家のためでも国民のためでもなく、自分のための裏工作と裏金だから犯罪になるのだ。政治家と役人が天下国家のために仕事をしていれば、そんなことになるはずがない。国民はそのために税金を払い、彼らの後顧の憂いがないように面倒を見ているのである。
(西川 渉、2003.3.29/加筆2003.3.30)
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