<ストレートアップ>

ヘリコプター特区のすすめ

  

 先日ある地方都市の経済団体からヘリコプターに関する構造改革特区について相談を受けた。ヘリコプターがもっと自由に飛べるような特区をつくりたいというのである。その点は、私もかねて考えていたことでもあり、喜んで相談に応じた。以下、相談の内容そのままではないけれども、関連する話題をいくつか取り上げたい。

 一つは、多くの人がもっとヘリコプターを使いたいと思っていること。そもそも空を飛びたいという人類の夢は、今のような大きな旅客機に乗ることではなく、自分で手足を動かし、好きなところから好きなところへ自由自在に飛ぶことであったはず。

 ヘリコプターは、その人類の夢に最も近い飛び方ができる。にもかかわらず操縦がむずかしく、騒音がやかましく、コストも高いためになかなか使えない。

 とりわけ値段の高いこと、運航費の高いことが問題だが、1990年前後にあれだけ機数が増えたのは、当時の経済水準から見てヘリコプターの価格がさほど高いとは思われなかったからであろう。つまり安ければ沢山売れるわけで、そのことはロビンソン小型ヘリコプターも実証している。

 おまけに当時は償却年数が2年だったから節税効果もあった。今から思うと、あれが一種の経済特区だったといえるかもしれない。しかるに発泡酒と同様、売れゆきが伸びると抜き打ち的に税制を改めるのが財務省だから、償却年限も5年に延ばされ、バブルがはじけてしまった。当時1200機を超えた機数は今や800機台へ3割減となったのである。


ロビンソン小型ヘリコプター

 第2の話題は昨年秋、日本ヘリコプタ技術協会の国際シンポジウム「ヘリジャパン2002」で行われたダニエル・シュラギ先生(ジョージア工科大学)の特別講演「ロータークラフトは輸送システムたり得るか」である。

 講演の趣旨は、自家用分野に目を向けて、個人用ヘリコプターの普及をはかることが交通輸送機関への第一歩というもの。そのためにヘリコプターの開発費や製造費を如何にして引き下げ、如何にして販売価格を安くし、如何にして運航費や整備費を減らすかという問題が体系的に語られた。

 結論的には都市圏内など、狭い範囲で使うのであれば高速性能も航続距離も要らない。エンジンはタービンの3分の1のコストですむピストンを採用する。機体構造を単純化して、ローターハブをなくす。その代わりブレードを近代化して、先端速度を下げ、騒音を減らす。同時に慣性力を増して安全性を高める。

 ほかにも種々の改良点が挙げられたが、こうした改修を既存の4〜5人乗りヘリコプターについておこない、直接運航費を1時間100ドル以下に下げる。それを1機50万ドル以下で発売する。2000機も売れるようならば34万ドル程度にする。

 もっと売れそうなら、初めから新しい機材を設計開発し、50万ドル以下で5千機を販売する。売れゆきが1万機ならば35万ドルでもいいし、5万機なら21万ドルにする。

 こうして多くの人が使うようになれば、もはやヘリコプターは他人事ではなくなり、懸案の「パブリック・アクセプタンス」の問題も解消するだろう。その上に立って、同じ安価な機材をヘリタクシーやビジネス機に使い、もっと大きな機材で本格的なヘリコプター事業を展開して行けばいいというのである。


4基のダクテッドファンを変向する方式の個人用VTOL機「スカイカー」

 以上のような考え方を実現するのがヘリコプター特区である。たとえば機材の設計、開発、製造に関しては、適切なメーカーや研究所が地元にあればいいが、ないときは外部から誘致する。それに応じる企業には土地の提供、国の研究機関や大学による緊密な技術支援、税制面の優遇をおこなう。誘致の対象となるのは大メーカーばかりでなく、むしろベンチャー企業や外国企業の方がいいかもしれない。

 そのうえで航空機製造事業法の適用条件を緩和する。あるいは人材の誘致もあり得る。それが外国人ならば、就労に関する法規上の条件を緩和する。

 一方、機材を購入し運航する側には、購入金額に見合う投資減税をおこなう。固定資産税の減免や償却年限の緩和もあり得よう。

 ヘリコプターが飛ぶためにはインフラ整備もおこなう。市街地の便利な場所にヘリストップを設けることとし、住民の協力を求める。加えて市街地から離れたところに広い土地を準備して、東京ヘリポートのような本格的な施設を建設する。

 このヘリポートには訓練学校を招き、安くて充実した操縦訓練ができるようにする。如何にすぐれた機材を開発しても、操縦できる人がいなければ何にもならない。ところが日本の現状は、飛行訓練の場所がない上に費用が高いので、学生はアメリカや中国へ出かけて行くといった変則的な状態にある。

 同じヘリポートで、機材開発のための試験飛行に加えて、ヘリコプターの運航方式を開発するための試験飛行もおこなう。米アトランティック・シティにはFAAのテスト・ヘリポートがあり、私もかつて見学に行ったことがあるが、ヘリコプターの計器飛行方式の開発や評価試験がおこなわれている。

 さらに同じ施設を使って、アメリカのオシコシ実験航空ショーのようなイベント開催も考えられる。オシコシ飛行場にはこの夏も、世界中から3000機近い自作機や改修機が集まって、1週間にわたる競演がおこなわれた。その中にはマツダのロータリーエンジンでダクテッドファンを駆動する2人乗りのVTOL機など、NASAの開発研究をしのぐ先端的な機材も披露された。

 ヘリコプターと特区の組合せからは、さまざまな可能性が生まれるのではないだろうか。

西川 渉、『日本航空新聞』2003年9月25日号)


個人用ジェットVTOL機

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