<ストレートアップ>
滑走路の要らない航空機 ![]()
新しい年を迎えて、ロータークラフトの世界にも新時代の到来が期待される。
期待のひとつは旧臘6日、民間型ティルトローター機BA609の試運転がいよいよ始まったこと。今後は40〜50時間の地上運転を経て試験飛行に移る。この試運転中に、機体装備のあらゆるシステムについて点検し、問題があれば交換や改修をするなど、完璧を期して飛行試験に臨むことになっている。
おそらくは1月末か2月初めには飛ぶと見られており、2月なかばの国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会では、その朗報が聞けるに違いない。この大会はベル社の本拠ダラスが会場である。BA609が会場に姿を見せるのは難しいとしても、なんとかして試験飛行のもようを垣間見たいものと思う。
なお、BA609は巡航速度509km/h、航続1,389km。増加タンクをつければ1,852kmまで伸びる。機内は与圧され、乗客6〜9人乗り。胴体は日本の富士重工が製造する。
今後の試験飛行は合わせて4機の原型機でおこない、2007年にはFAAの型式証明を取得する予定。最近までの受注数は18か国、40社から85機という。
試運転中のBA609(写真:ベル社提供)一方、2001年5月から試験飛行を再開した軍用ティルトローターV-22オスプレイは、再開後の飛行時間が100時間を超え、11月25日から急降下試験もはじまった。これは一昨年までの一連の事故に見られた原因の一つがローターブレードの失速――ボルテックス・リング状態(VRS)にあると見られるところから、同じような飛行を再現して失速状態の発生と、そこからの離脱方法を解明するのが目的。
VRSは前進速度の遅いまま急降下をしたときに生じやすいと見られる。そこで、この状態に近づいたときの予知の手段も検討することになっている。 そのため、たとえば前進速度40ノット、降下率毎分800フィートといった飛び方を含めて、この2月まで試験飛行が続けられる。
こうした状況を受けて、米海兵隊ではV-22を2003年から実戦配備につける準備に取りかかった。たとえば2年前、V-22の飛行中断の時点では総数約200人が関連部隊に所属していた。現在は100人以下に減っているが、近いうちに元の状態に戻す方針。そのため新人も含めて新たに70人の整備要員について訓練がはじまった。
試験飛行中のV-22(写真;ベル社提供)もう一つお正月らしい話題は将来の滑走路不要機(RIA:Runway Independent Aircraft)である。上の2機種はその先駆けとして困難な開発作業を続けているが、成功のあかつきには垂直離着陸の可能な旅客機が出てくるであろう。NASAは2年ほど前から、この新しいV/STOL旅客機の概念設計をベル、ボーイング、シコルスキーの3社に依頼していた。
目的は空港の混雑解消をめざすもので、3社の中から一案を選び開発研究を進めることになっている。その3社の案は、最近明らかにされたところでは、次のようなものである。
ボーイング社は停止折りたたみ式のティルトローター機、双ローター/コンパウンド・ヘリコプター、ティルトウィング機などを検討した結果、発達型のティルトローター機を選定した。1席1キロあたりの運航コストが最も安いためという。
外観は胴体の前方上部に小さなカナード翼を持つ。主翼は平面形がW字形に折れ曲がったような形だが、これは両端のティルトローターによるダウンウォッシュの影響を最小限にするため。スパンは20mとなる。
左右2つのローターは5枚ブレードで、直径15m。胴体は90人乗りで、左右6列の座席配置が可能。飛行機モードで飛ぶときの巡航速度は650km/h。ペイロードは9,000kgだが、460mの滑走をすればほぼ2倍になる。航続距離は1,100kmである。
シコルスキー案は逆速ロータークラフト(RVR:Reverse Velocity Rotorcraft)。後退側ブレードの揚力も落とすことなく、ローターの抵抗を15%減らし、失速特性を改善した翼型を持つ。ブレード数は8枚だが、個々のブレードを別個にコントロールすることができる。
エンジンは3基。トランスミッションは回転数が2段に切り替わり、垂直飛行中は回転が速く、巡航飛行中は遅くなる。尾部にはダクテッドファンがつき、前進飛行の推力を受け持つが、その動力は補助エンジンから得るようになっている。
総重量は27,000kgで、乗客80人乗り。巡航340kt、航続920km。巡航飛行中にローターにかかる荷重は、スパン15mの短固定翼によって軽減される。この固定翼は60〜70%の揚力を負担し、燃料効率も良くなる。
滑走路不要機
左はボーイング社の発達型ティルトローター案、右は逆速ロータークラフトベル社の案はクォッド・ティルトローター(QTR)である。胴体前後に固定翼を持ち、それぞれの両端にティルトローターを取りつける。V-22の開発から得られた技術を応用するもので、乗客120人乗りの4発機ということになる。
こうしたRIAを、今アメリカが開発研究をすすめるのは、空港混雑を解消するためである。米国の航空輸送需要と、それに対する空港の現状は、滑走路長にして80kmの不足と計算されている。この不足によって定期便の遅れが生じ、それにるエアライン業界の損失は毎時3,600ドル――すなわち毎秒1ドルに達する。
といって滑走路1本を増やすには、建設費だけで30億ドル(約3,600億円)を要する。これに対し既存の空港の一角にヴァーティポートをつくれば、費用は100分の1以下、1,700万ドル(約20億円)しかかからない。
そこから既存の旅客機と干渉しないような方式でRIAを飛ばせば、今の空港の旅客乗降機能を5割ほど増大させることができる。これで定期便の遅れが減り、損失も減るばかりではない。むしろ新しい事業分野を生み出すことにもなる、というのがNASAの研究結果である。
新しい未来には、まだまだ多くの可能性が残されている。
(西川 渉、『日本航空新聞』2003年1月16日付け掲載)
ベル社の構想する4ローター・ティルト機(QTR)(表紙へ戻る)