<実験航空機>
オシコシ・エアベンチャー・ショー ![]()
今週の英『エコノミスト』誌が、米ウィスコンシン州オシコシで7月29日から8月4日まで開かれた実験航空ショーのもようを書いている。毎年夏に開催される恒例のショーで、主催はEAA(Experimental Aircraft Association : 実験航空機協会)。
もっとも実験航空といっても、決して堅苦しいものではない。空を飛びたいという人類の夢を、自分ならばこういう形でやってみせるという意欲とアイディアを表明するための集まりで、みんなが思い思いの航空機を持ち寄って自慢し合う。その発表の場が航空ショーとして組織されているのである。
しかし、規模と内容はケタ外れである。正式参加機として登録された航空機は、自作機はもとより、軍用機を改修したり、古典機を復元したり、将来の量産をめざすものなど、今年は2,960機に上った。ほかに、このショーのために集まった航空機が、同じオシコシ飛行場はもとより、周辺の飛行場を含めて、総計およそ11,000機というから大変な数である。
したがって大会期間の1週間、オシコシ周辺の航空管制はニューヨーク、フランクフルト、ロンドンを抜いて、世界で一番忙しい空域となった。そのため米連邦航空局(FAA)は、ここに管制官の一団を派遣して臨時の管制塔を設けたものである。
さらに、それらの航空機を飛ばしたり見たりするために集まった人びとは1週間で77万人。昨年の大会よりも2万人多かったらしい。もとより国外からの参加も多く、世界68か国から2,249人の人がやってきた。さらに参加者は1週間の会期中、自分の航空機の横にテントを張って寝る人が多く、キャンプ人口は33,000人に上ったという。
(飛行機とテントがひしめくオシコシ飛行場)といって、オシコシ・エアベンチャー・ショーは単に航空マニアや愛好家のお祭り騒ぎだけではない。ものによってはNASA以上に先端的な技術をめざす発明や工夫もあって、決して無視することはできない。
そのうえ、史上初めて音の壁を破ったチャック・イーガー、人類初の足跡を月面に残したルイ・アームストロング船長などもやってきて、膨大な人びとの前でスピーチをするといったこともおこなわれた。これらの人物が文字通りエアベンチャーの体現者であることは言うまでもない。
正式参加の登録機も前回より200機ほど多かった。その内訳は次表の通りである。
種 類 機 体 数 水上機
129機 軍用機
405機 ウルトラライト
357機 ホームビルト
825機 復元古典機
1,224機 こうした多数の航空機の中から『エコノミスト』誌は何機かの航空機に着目し、将来への期待を書いている。その中の2機種について、ここにご紹介しよう。
(カッコいい小型ビジネスジェット「ジャベリン」)ひとつはジャベリン・エグゼクティブ・ビジネスジェットである。2人乗りの双発ターボファン機。重量の割にエンジン出力が大きいので、速度はきわめて速く、大型ジェット旅客機や普通のビジネスジェットにくらべても160km/hほど速いという。
航続距離は通常1,800kmだが、やや速度を下げて860km/hで飛べば2,280kmまで伸びるし、1,500km以内の近距離ならば965km/hの高速巡航も可能である。飛行高度は14,900m。
エアタクシーにも使えるというが、2人しか乗れないから最大のねらいは個人的な自家用機であろう。したがって価格も220万ドル(約2.5億円)と、セスナ・サイテーションCJ1の半分に抑えられている。それでいてまことにカッコいい機体で、ジェームス・ボンドが降りて来そうだと書いてある。
機内は与圧され、幅の広いゆったりした座席が前後に並び、乗り心地も良さそうだ。パイロット単独の計器飛行もできる。手荷物は最大90kgまでの搭載が可能だし、2人分のゴルフクラブやスキー用具も載せられる。
メーカーのアヴテック社によれば、これさえあれば混雑した空港まで出かけて不便な定期便を使う必要はなく、全米5,000か所の飛行場を結んで自由に飛び回ることができるとか。
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もう一つはAMVエアクラフト社の提案するVTOL機。自家用機として使えるような小型VTOL機は、これまではヘリコプターで試みられてきたが、まだ充分に成功したとはいえない。
そこでAMVがオシコシに持ちこんだのは安くて、静かで、高速で、長距離飛行のできる垂直離着陸機である。これが成功すれば、飛行場を使う必要もなくなって、人びとの移動形態は大きく変わるであろう。もっとも、そうなるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。というのは、このVTOL機はまだ飛んでなく、8月中に初飛行の予定だそうである。
推力はダクテッドファン。5枚ブレードのプロペラを軽量の複合材製ダクトの中に収める。つまりプロペラが外部に出ていないから安全性が高く、しかも周囲に騒音をまき散らすようなこともない。
設計上の新しい工夫は3点。一つはファンが胴体の中に固定されていて、向きを変えるわけではない。噴射気流の変向は胴体下面に取りつけた直径6フィートのルーバーでおこなう。
次は主翼がファンに対して一定の角度で取りつけてあること。第3は胴体それ自体がスペースシャトルのように揚力を発揮する形状になっていることである。
(AMV機のパテント図とオシコシに展示された機体。名前はまだない、みたい)離陸をするときは、ファンを回して空気を下向きに噴射し、垂直に離昇する。離陸後、機体を26°前傾させると主翼が揚力を発揮する。主翼が揚力をもつようになったところでファン気流の噴射方向をルーバーで変向し、推力を後ろ向きにする。
飛行中の安定維持も、このルーバーの操作でファン気流の噴射方向を調節することでおこなう。エンジンは日本製。マツダのターボチャージャーつきロータリー・エンジン(450hp)である。
総重量は800kg。毎分1,500mの上昇率で、最大速度450km/h、巡航400km/h。燃費は1時間10ガロン。
こうした自家用VTOL機の開発について、AMVエアクラフト社のオーナー、アティラ・メルクティ氏は、空港を使わねばならないような飛行は自由な飛行とはいえないと言う。つまり航空技術者たちがライト兄弟いらい100年間夢みてきた夢を、いよいよ現実のものにしようというのである。
このVTOL機の開発に成功すれば、発明者のメルクティ氏は大金持ちになるだろうとエコノミストは結んでいる。
(西川 渉、2003.8.11)
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