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<ストレートアップ>

ヘリコプターと国家戦略

 

 ヘリコプターは国家戦略につき従うとは、畏友宮田豊昭の看破したところである。こんなに高価で、やかましくて、取り扱いの厄介な代物を、誰が好きこのんで使ってくれるものか。国の大方針に沿ってこそ生きる道があるのだ、と。

 その観点からヘリコプターの来し方をふり返ると、1960〜70年代は食糧増産と農業の近代化が日本の基本政策であった。ヘリコプターもそれに従って大量に農薬散布に使われた。続いて70〜80年代の課題はエネルギーの確保である。石油危機を背景として、周辺海域の石油探査はもとより、全国的な電力網が敷設された。ヘリコプターはそのための送電線建設工事に威力を発揮した。

 外国も同様である。第2次世界大戦と朝鮮戦争に辛うじて勝利をおさめたアメリカは、まだ苦戦の緊張冷めやらぬ1950〜60年代、兵力の温存と兵器の改良を基本方針として、ヘリコプター事業に惜しみなく補助金を出した。ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなどの大都市で大型ヘリコプターによる定期旅客便がさかんに飛んだのも、そうした戦略があってのことだった。

 70年代は石油危機を契機として、エネルギーの確保が世界的な緊急要件となった。石油開発は無論それ以前からおこなわれていたが、70年代以降は地球上いたるところで海底油田の開発が進むようになり、その支援に当たるヘリコプターの需要も急増した。

 80年代に入ると、ベトナム戦争で多数の死傷者が出たことから人命救護が欧米諸国の命題となった。90年代も続発するテロとの対決に迫られ、9.11以降のアメリカは本土の安全保障を国家の基本体制とした。軍用機はもとより、警察、消防、救急など緊急対応ヘリコプターの需要が増えたのは、こうした国策にもとづくものである。

 そこで、もう一度、本紙5月22日付の本欄を思い出していただきたい。あそこで世界と日本のヘリコプター事業の差異についてご紹介したが、国際ヘリコプター協会(HAI)の調査による世界的なヘリコプター事業は、収入源の53%が石油ガスの開発支援、21%が救急救助であった。この2つの事業が欧米諸国の国家戦略につながっていることは上に述べた通りであり、双方合わせて収入源の4分の3を占める。

 それに対して、わが国ヘリコプター事業の収入源は何か。上に述べた農薬散布が11%、建設資材輸送が15%に過ぎない。かつて、この両者が国策に関連していた当時は、両方で6割程度を占めていた。しかし今、農業の近代化も電力網の敷設も完了し、国の基本政策ではなくなった。その結果、ヘリコプター収入源としても小さくなってしまったのである。

 ほかにも、収入源はいろいろあるが、国策に発するようなものではなく、それぞれの粒が小さい。結果として、日本のヘリコプター事業は今、きわめて貧しい状態に陥ってしまった。 

 その貧しさから脱け出すには、どうすればいいか。新しい国家戦略に沿った仕事につくことである。

 新しい戦略とは、一つがこのほど成立した「有事法制」の指し示す方向であろう。しかし、これはヘリコプター・メーカーの仕事にはなるが、運航会社の仕事にはなりにくい。ただし豪州では戦闘機の訓練事故の救助に民間ヘリコプターをチャーターしているし、英国海軍は沿岸警備の一部を民間ヘリコプターに依頼したり、パイロットの基礎訓練を民間会社に依託している。理由は、ヘリコプター運用技術のすそ野を普段から広げておくこと。そのうえで民間依託の方が経費がかからないという直接の効用もあるからだが、同じようなことが防衛庁に考えられるかどうか。

 もうひとつは、わが国にも欧米同様に人命救護という基本方針があって、それに基づくヘリコプター救急が拡大することである。しかし今のところはまだ国策といえるような状態ではない。

 警察ヘリコプターや消防・防災ヘリコプターは10年余り前から全国各県に少なくとも1機ずつ配備する方針が出て、着実に実行されてきた。同じように救急機についても、たとえば5年間で30機という目標がなぜ進まないのか。防災機があるから救急機は不要という考え方があるやに聞いたが、両者は本質的に異なる。救急機は消防車に対する救急車と同様、救急専用であるだけに、たとえば68機の消防・防災機が年間2,000件に満たない救急出動をしているのに対し、ドクターヘリは1機で500件前後の出動をする。しかも医師が同乗するから救命効果は遙かに高い。

 こう書いてきたからといって、何かを国に頼ろうとか、助けて貰いたいと言っているわけではない。そうではなくて、ヘリコプターは国のために仕事をしたいのである。そうした仕事ができるし、社会的な貢献が可能なのである。

 しかるに、ヘリコプターの社会的な役割が今の日本に少ないとすれば、これはもう国家戦略の有無を疑わざるを得ない。

西川 渉、『日本航空新聞』2003年7月10日付掲載)

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