ヘリコプターは神さまです

――その2――

  

 昨日の本頁にリーチ・エア・アンビュランスの話を掲上したあと、最近出たばかりの『お言葉ですが(7)――漢字語源の筋ちがい』(高島俊男著、文藝春秋社、2003年4月15日刊)を読んでいたら「お客さまは神さまです」という一文が出てきた。

 この三波春夫の名言がどういういきさつで出来たかを考察したうえで、意味するところは「深い感謝が、このことばにはこめられている」とする。にもかかわらず、学研の英和辞典が The customer is always right.という句に「お客様は神様です」を当てているのに、著者は驚く。この英語は、客の無理難題にもさからってはいけないという商売のコツを言っているのであって、感謝の意味ではないはず。確かに、そうであろう。

 では感謝の意味をもつ「お客さまは神さまです」という英語は何か。どのように翻訳すればいいのか、著者は考えあぐねて、英語の専門家、それも日本人からアメリカ人にまで問い合わせたが、ついに「翻訳できない」という結論に達する。

「外国語に翻訳できない日本語こそ、真に日本語らしい日本語」というのが著者の結びだが、それならば昨日の本頁に掲載した救急患者の家族からの礼状――ということはリーチ社への感謝の意味がこめられているわけだが、「私どもは神に護られていることを知りました。お陰さまで、リサはまだ生きております」という言葉こそが三波春夫の意味に近いのではないかと思うのである。

 もとの英文は次のように書いてある。

"... God has blessed us through you. The medical care that Lisa received from each of you, the teams of REACH, was exemplary. You have each spent time and energy helping to keep Lisa alive. For this, we will be grateful ..."

 この英文にくらべて、私の要訳は飛躍し過ぎかもしれぬが、直訳すれば「神があなた方を通じて、われわれに恵みを垂れ給うた」――つまり、あなた方は神ですということにならないだろうか。

 同じように、救急ヘリコプターへの感謝の念を神であらわした例は日本にもある。1999年のエアレスキュー研究会で、東京災害医療センターの本間正人先生が発表されたもので、ヘリコプターで救助された患者さんが「ヘリコプターこそ神様だと思いました」と語った話である。詳しくは当時の本頁「ヘリコプターは神様です」をご覧いただきたい。  

 

 ところで、『お言葉ですが』の同じところに「小生の本を財布を開いて買ってくださるお客さまは、ほんとうに神さまです。まして『お前の本は全部買ってるぞ。みな読んだぞ』と言ってくださるお客さまにいたっては、もうかたじけなくて涙がこぼれる(これまでに四人いらっしゃいます、はい)」と著者は書いている。

 私も、この人の本は全部買って読んでいる。とにかく面白いのである。面白がっているうちに神さまに列せられてしまった。著者にとっての神さまは4人どころか、ずいぶん多いことであろう。

(西川渉、2003.4.18)

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