<低運賃エアライン>
躍進するジェットブルー 英語で「ブルー」といえば、澄み切った青空を想起すると同時に、暗い陰鬱な気分をもあらわす。ジェットブルー航空という社名はむろん前者の意味だろうが、一方では競争相手を蒼ざめさせる名前にもなっている。
ジェットブルーはニューヨークJFK空港に本拠を置く低運賃航空である。それが今、破竹の快進撃を続けているのだ。
同航空はこれまで46機のエアバスA320を運航してきた。しかし急成長の余り機材が足りなくなって、去る4月に65機を追加発注、さらに50機を仮発注した。これで同航空のA320への確定発注数は111機となり、そのうち53機を今年末までに受領することになっている。
と思ったら、この6月にはエムブラエル190リージョナル・ジェットを100機発注した。おまけに100機の仮注文も出しており、発注金額は60億ドルに達する。
エムブラエル190は、これで開発作業に拍車がかかり、原型1号機は来年初めに初飛行、2005年秋からジェットブルーへの引渡しがはじまる。同機は標準型110席のリージョナル機として設計されたものだが、ジェットブルーはこれを100席に減らし、左右4列、前後32インチ・ピッチの豪華な革張り座席をつけ、各座席にはディレクトTVをつけて飛行中は各人勝手に衛星放送を見ることができるようにする。
ジェットブルーは2000年2月に運航を開始した。以来3年余り拡大に次ぐ拡大を続け、最初の1年間は別として、以後2年間は利益を挙げている。
2002年末までの年間売上高は6億3,520万ドル(約760億円)、税引き後の純利益は4,890万ドル(約58億円)であった。2003年第1四半期も1〜3月の3か月間で1,740万ドル(約20億円)の利益を上げている。
経営規模も今年は前年比55〜60%増、来年は30〜40%増になる見込みで、その拡大と増強はとどまるところを知らない。
運航内容は今年4月の時点で、寄港地が21空港、1日の飛行便数200便以上となった。その7割はJFKから出発するか、JFKに到着する便である。こうしてJFKと結ぶ主な路線はワシントン・ダレス空港のほか、オークランド、ラスベガス、ソルトレークシティ、ロングビーチ、アトランタ、フォトローダーデール線などとなっている。
ニューヨークを本拠とするジェットブルーの主な路線ジェットブルーが運航中のA320旅客機は、座席数162席。昨年1年間の平均利用率は83%という高率を誇る。これは前年2001年より5%増の利用率である。しかも供給座席数は前年比95%増と2倍近くに増えている。無論オーバーブッキングなどというトラブルの種は絶対にしないというのが基本方針であり、これだけの供給座席数を常に83%埋めるというのは前例のないことであろう。
定期便の就航率は昨年99.8%だった。そのうえ85.7%が遅延なしの定時到着だったが、これら2つの数字はどちらも米エアライン業界の第1位である。さらに手荷物の紛失や遅れに関する苦情の少なさはサウスウェスト航空に次ぐ第2位となっている。
また4月なかば、9連休期間中の就航率は100%、定時到着率93%、座席利用率90%という好成績であった。
ジェットブルーのパイロットは会社からノート・パソコンを支給される。これで彼らは自分の操縦する機体のウェイト・アンド・バランス(重量・重心位置)や離着陸距離を計算し、現在の気象情報やフライト・マニュアルも呼び出すことができる。
さらに他機に生じた不具合情報もこのパソコンに送りこまれてくるから、パイロットは飛行中でも瞬時にして不具合の発生を知り、どのような処置をすればいいのかが分かる。
パイロット、整備士、運航管理者などは全員がFAAの資格取得者である。パイロットは5年契約。飛行手当は月間70時間が保証され、70時間を超えた分は、手当の単価が1.5倍になる。何故なら会社としてパイロットには1人1,000時間程度の飛行をして貰いたいと考えているからで、パイロットの方も1,000時間を飛べばそれなりの報酬が得られることになるからである。
従業員組合はない。会社としては今後も組合のないままであってほしいと考えている。だからといって経営陣が反組合思想というわけではない。そうではなくて、従業員が自分たちの権益を守るために組合をつくらねばならないような事態は、それだけで経営の失敗と考えるからにほかならない。
従業員は地上職員も含めて、全員が「クルーメンバー」と呼ばれる。総数4,000人で、「プロフィット・シェアリング」制度に参加している。これは税引き前利益の15%を全社員に配分するという制度で、これにより社員各人の給与は、たとえば昨年の場合、年間で15.5%増となった。
また社員持株制度もある。これにより社員は市場価格の15%引きで、会社の株を買うことができる。こうした制度によって、ジェットブルーの従業員は、エアライン業界では中位よりもやや高い程度の待遇を受けることになる。
もうひとつ驚くべきは、ジェットブルーの600人近い予約受付係が自宅作業をしていることである。本社にいるのは、ごく少数の時間給の予約係だけ。あとは自宅の予約係が電話を受け、コンピューターで処理をする。したがって、何も会社に出てこなくても仕事ができる理屈である。
ところが、こうした予約係が取り扱う予約は、全体の27%程度に過ぎない。残り7割はインターネットによる予約である。旅客は人の手を通すことなく、自分で自分のパソコンに向かって搭乗日や搭乗区間、飛行便数などを打ち込めば予約手続きがすむことになる。
こうした予約システムによってジェットブルーの予約経費は、旅行代理店に支払う手数料がほとんどかからないし、徹底したチケットレスのために文書類をつくる必要もなく、大幅に削減されている。
だがジェットブルーがうまくやるにつれて、競争相手もそれに合わせた営業方針を打ち出してきた。たとえばニューヨーク〜フロリダ間では、コンチネンタル航空が最大のシェア21.6%を取っているが、ジェットブルーを追い落とすために運賃をほぼ同額まで下げるようになった。
しかも4月15日からはデルタ航空の子会社で、格安運賃を標榜する「ソング」航空がJFKからウェスト・パームビーチへ757(199席)を飛ばしはじめた。デルタ航空のASM当りの人件費は約4.4セントでジェットブルーの1.9セントには遠く及ばないが、757はA320より座席数が多い。飛行時間も1日13.2時間を飛ばして、ジェットブルーの13.1時間を上回るような方策を採っている。
しかもソングの運賃は片道85ドル。ジェットブルーの106ドルに対してちょうど2割引きに相当する。しかし何故か、ジェットブルーの顧客はさほど減っていない。というのは、ソングがいわゆる「ノーフリル」運賃で、安い代わりにサービスも何にもしないのに対し、ジェットブルーの方は決して「ノーフリル」ではない。安くて合理的な運賃ではあるけれども。その中には食事もテレビ・サービスも含まれる。ここまで安ければ、乗客はそれ以上安くなるよりも、最低限のサービスを望むようになる、というのがジェットブルーの見方である。
逆に競争相手が飛んでいる区間に新しく進出しようとする場合、ジェットブルーは市場の実態をよく観察し、簡単な公式に当てはめる。すなわち既存のサービスは何か、既存の運賃はどの程度かを見て、ジェットブルーとしてのコストはどのくらいになるか、どの程度の運賃が設定できるか、その運賃で競争できるか、将来の市場の発展性はあるか、どのくらいの利益が上げられるかといったことを単純ではあるが細かく検討する。
そのうえで、その新市場へ出るかどうかを判断する。その結果、ジェットブルーとしてはサウスウェスト航空の飛んでいる路線にだけは、まだ一度も進出したり挑戦したりしたことはない。今のところ、サウスウェストだけは残念ながら敬して遠ざけておいた方がいいというのがジェットブルーの判断である。
ジェットブルーの対象とする乗客は観光客や団体客よりも、ビジネス客に重点を置いている。むろん切符を買って乗ってやろうという乗客はだれでも歓迎する。「ジェットブルーのような安い切符は、それを買ったからといって破産するような人はいないはずだ」
事実ジェットブルーの切符は安い。最も高い切符でも299ドルである。往復切符はない。すべて片道切符ばかりで、予約と同時に買ってもらう。その代わり土曜日に飛べとか、先方で2日泊まれとか、変更不可といった条件はつけない。
ただし返金はしない。どうしても都合が悪くなったときは、搭乗日や便名を変更してもらえばよい。予定よりも早い便に変更するときは、座席の空いている限り無料である。
しかし遅い便に変えるときは手数料として25ドルをいただく。この変更を4回繰り返して、手数料だけで100ドルになったときは、5回目以降の変更は無料である。
これらのやり方は、エアライン側の都合というよりも、顧客の利便性を重視してのことである。こうしたジェットブルーのシステムによって、いま航空界に大きな変革がもたらされようとしている。それは30年前のサウスウェスト航空につづく、第2の変革といっていいかもしれない。
いうまでもなく、低運賃エアラインだからといって全てがうまくゆくとは限らない。むしろ、初めのうちは華々しく売り出すが、時と共に精気を失い、やがて消えて行く。そういう企業の方が多い。
ジェットブルーも、まだ発足3年余。これから何が起こるか分からないし、過去のいくつもの実例に照らして、長続きはしないだろうと見るむきもある。
しかし、その経営戦略には他にない新しいものがあり、利用者にとっても嬉しい工夫が見られる。飛翔の行く手に蒼穹の広がりを期待したい。
(西川 渉、2003.6.18)
ジェットブルーの経営および運航の実績
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