
イラク戦争とヘリコプター ![]()
米ペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)を引退した元CEO兼会長の、キャロル・サッグスさんが、ヘリコプターについて一般の人びとがどう思っているだろうかと問われて「ヘリコプターにできることは三つだけ。映画に出演して泥棒を追っかけ、戦争に行ってタンクを撃ち、天気が悪くなると墜ちる」という名言を吐いたのは、もはや3年も前のことだった。この冗談が本物になったのがイラク戦争である。
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英『フライト・インターナショナル』誌がイラクで撃墜されたり事故を起こしたりした航空機について集約している。その中からヘリコプターだけを抽出すると次のような表になる。
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3月20日 |
米海兵隊CH-46D |
米海兵隊員4人で英海兵隊員8人を輸送中、クェート国内で墜落 |
12人 |
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3月22日 |
英海軍ウェストランド・シーキング2機 |
空母に向かって1機が進入中、別の1機が離陸して空中衝突 |
7人 |
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3月24日 |
米陸軍AH-64D |
イラク農民が鉄砲で撃墜したというが、破損状況から機材の故障による不時着ではないかとの見方もある |
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3月30日 |
米海兵隊UH-1N |
機材の故障による墜落 |
3人 |
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3月30日 |
米陸軍AH-64D |
機材故障による墜落 |
怪我2人 |
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4月3日 |
米陸軍UH-60 |
被弾による撃墜 |
6人? |
この表を見ると、ヘリコプターは如何にも脆弱という感じを免れない。砂嵐や炎熱のために故障したり、農民の鉄砲で撃ち落とされたり、空中でぶつかったり、戦争といっても勇ましい名誉の戦死は余り見られないのだ。
とはいえ、ヘリコプターばかりではない。英空軍のトーネード戦闘機や米海軍のF/A-18Cホーネット戦闘機が米軍のパトリオット・ミサイルの誤射によって撃ち落とされたり、米海兵隊のAV-8BハリアーやF-14Aトムキャットが故障のために墜ちたりして、これまた似たような状況にある。
けれども、死亡者はヘリコプターの方がはるかに多い。砂嵐の中、低空を低速で飛んでいるのでやむを得ないことではあるが、サッグス夫人のいうように戦争に行くと同時に、天気が悪くなると墜ちるという印象がますます強くなるのも避けられない。
ヘリコプターは常に飛行条件の悪い第一線に立たされる。厳しく苦しい任務を遂行しながら、最後は悲劇に終わることも少なくない。その点では、きちんと整備された飛行場ではなく、田んぼのあぜ道から農薬散布をしたり、山中のせまい空地から大量の資材運搬に当たる民間ヘリコプターも変わりはない。まことにめぐり合わせの悪い航空機である。
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しかし戦場のヘリコプターは、敵を攻撃するばかりではない。ベトナム戦争で多数の負傷兵がヘリコプターで救われたことはよく知られている。イラク戦争でも同じく、負傷兵の救護にヘリコプターが使われた。それでもベトナムでは2,500人の負傷兵が手遅れのために無駄死にをしたという。イラクではどうだったか、まだ結果が出ていない。
救護のためのヘリコプターとして、米海兵隊はイラク戦線に多数のCH-46Eと32人の医療スタッフを送りこんだという。機内には乗員2名、軍医や衛生兵2名が乗組み、担架9人分を搭載して前線に飛んでいる。
初めのうちは、米軍ばかりでなくイラク側の負傷兵も救出したらしい。もっとも、その後しばらくして白旗を掲げたイラク兵が米軍に近づいて自爆攻撃をしてきたため、以後はアメリカ側も用心してイラク人の救助を断念した。
CH-46Eも救急救助機としては必ずしも充分な装備をしていなかった。たとえば冷凍設備がないために輸血用の血液も積んでいない。ほかの医療器具も不充分で、現場での治療はごく限られたことしかできなかった。逆に救急専用機ではないため、50ミリ機関砲2門を搭載し、敵に反撃する能力もそなえている。救助のために戦場に入ってゆけば当然、地対空ミサイルなど敵の攻撃を受けることも多いからである。
救急救助のヘリコプターにとって、もう一つの問題は、米軍の最前線が急速に奥地へ展開したことである。そのためアラビア湾にとどまる病院船からの距離がどんどん遠くなり、ヘリコプターは大きな苦難を強いられた。
軍隊が敵地へ攻めこんでゆき、最前線が後方兵站基地から遠くなると補給線が延びる。何百キロもの長距離を、敵の攻撃をかわしながら大量の燃料、水、食糧、弾薬を運ぶのは容易なことではない。イラク戦争で最も心配された問題である。
そのため米陸軍は未来輸送システム(FTS)という要求を出して搭載能力と航続性能が大きく、輸送能力の高いヘリコプターの開発を計画している。それに対してベル、ボーイング、シコルスキーの各メーカーが超大型ヘリコプターの開発構想を打ち出しているが、最近グローエン・ブラザーズ・アビエーション社(GBA)からも新しい構想が提案された。
これはGBAジャイロリフターと呼ばれる構想で、ペイロード20トン、航続1,000km、速度300kt(555km/h)という米陸軍の要求を満たすことができるというもの。基本構造はC-130ハーキュリーズ輸送機の上に5枚ブレードの巨大なローターを取りつけ、ブレード先端のチップ・ジェットによって駆動する。
これで同機は垂直離着陸もホバリングも可能となる。また巡航飛行中は100ktを超えると主翼に取りつけた4つのターボプロップで前進し、チップジェットは停止する。それでもローターは自動回転を続けるから多少の揚力を発揮し、それに主翼が加わって機体重量を支える。
つまりC-130を利用するので、開発費や製造費は安くすむし、ヘリコプターやティルトローターのような複雑な構造も要らない。それでも垂直離着陸が可能で、C-130に近い輸送力をもつというのである。
なおローターブレードは複合材製で、複雑なひねりがつき、ホバリングから高速飛行まで常に最良の性能を発揮する形状になっている。またブレード内部にはチップ・ジェットの制御装置や給油管が通る。こうしたC-130VTOL機が、GBAによれば、2008年には実用化できるという。
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戦争は多くの人命を奪うが、同時にまた技術の進歩を促すことも事実である。
(西川 渉、2003.4.15)
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