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居眠り症候群 ![]()
先日来、新幹線の運転手が居眠り運転をしたというので問題になっている。たしかに列車の運転をしながら眠ってしまうというのは褒められたことではないが、そのために列車が自動的に停まったという、そのことに私は感心した。つまり居眠りをしても大事故にならぬシステム――そのすぐれた技術こそ逆に称賛さるべきではないか。
人間誰しもエラーはするし、居眠りだってするだろう。したがって居眠りはケシカランと非難してみても、直るものではない。そうではなくて居眠りやエラーをしても大事に至らぬ仕掛けこそ大事であって、わが新幹線にはそれが組み込まれていたのである。「おみごと」というほかはない。
ましてや、その運転手は、睡眠時に呼吸が止まって熟睡できず、日中に眠気に襲われる「睡眠時無呼吸症候群」(SAS:Sleep Apnea Syndrome)だったというではないか。殺人だって、精神障害者ならば罪に問われないご時世である。
SASという病気は睡眠中に舌の奥が垂れ下がって、空気の通路をふさぎ、呼吸できなくなることで起こる。引きつるような高音のいびきを伴う場合が多く、いびきがしばらく止まり、その後あえぐような息やいびきで呼吸が再開するのだそうだ。そんな病気だったとすれば、なおさらのこと、本人よりも、そういう人を運転手に起用したJRの責任者こそ問題ではないのか。
もっとも私自身も、こんなむずかしい病気は初めて聞いた。昔から居眠りをすることでは人後に落ちぬが、自分では嗜眠性脳炎ではないかと思っていた。
ところで車の場合は、今のところ新幹線のような仕掛けはできていない。走行中に運転手が居眠りをすると、かたわらを歩いていた通行人をはねたり、街道筋の住宅に飛び込んで恐ろしい事故になる。実際、いつも起こっていることである。
交通事故の取締りにあたって、警察は酒酔いばかり問題にするが、SASは酒を飲まなくても意識をなくすおそれがある。SASに限らず、ほとんどの人が運転中に眠くなった経験があるはず。
SASは決して珍しい病気ではなく、少なくとも2%、多ければ20%の人に見られるというではないか。特に日本人は重症のSASが多いらしい。そういえば、電車の中でも前後不覚に眠りこんでいる女学生などがいるし、昼間でも終点の駅で駅員に起こされている人を見かけたりする。
最近の本頁でも、交通事故は運転者が眠くて起こすものが多く、米国の調査では、事故の半数以上が運転者の睡眠不足によって判断力が低下し、半睡半覚状態で起こるという英『エコノミスト』誌の記事を紹介したばかりである。
したがって、新幹線の居眠り運転を問題にするならば、同時に車の居眠り運転も問題にすべきであろう。この場合、居眠り運転とか酔っぱらい運転に高額の罰金を課すのもいいが、それは事故が起こった後の問題である。居眠りやエラーを前提として、それでも事故に至らぬような仕掛けを考えなければならない。
運転手が船を漕ぎはじめたら、直ちにブザーを鳴らして、これは船ではないぞという警報を発するような仕組み。あるいは居眠りのために手の力が抜けて、ハンドルの握りが弱くなったら自動的にブレーキがかかるといった装置をつけるとか。
無呼吸症候群に関しては「無呼吸モニター」という装置もあるらしい。そういうものを運転手か車に取りつけて、ブレーキに連動させてはどうだろうか。
航空機に関しては、これまでもたびたび書いてきたが、人間のエラーを前提として、エラーをしても事故が起こらぬような自動システムが発達してきた。旅客機やビジネスジェットのオートパイロットがそれで、新幹線も同じ発想であろう。
近年あまりに技術が進み過ぎて、生身の人間では操作のむずかしいところがあり、エラーをしやすい。それに、何か事が起こっても人間が咄嗟の判断で修復するなんぞは不可能に近い。すべてをコンピューターにまかせざるを得ないという考え方である。
いつぞやのビジネスジェットの事故は、高空を飛行中に与圧が漏れて乗っていた数人が全員、酸欠のために意識をなくし、死亡した。しかし飛行機はオートパイロットで飛んでいたから、死者をのせたままどこまでも飛び続け、墜落したのは燃料がなくなったときであった。幸か不幸か、米大陸からロサンゼルス上空を越えて、太平洋上まで飛んでいた。パイロットが死んでも、飛行機は飛べるのである。
先日の本頁に、将来のコクピットには人と犬が乗り組むだろうというジョークをご紹介した。同じように、大型トラックなども深夜を走るときは居眠り防止のために犬をのせたらどうだろうか。
ただし犬と人の関係は飛行機の場合と異なり、車の場合は人が居眠りをしたら犬が吠えるとか噛みつくように訓練しておくのである。こうなると犬の存在も重要だから、航空会社や運送会社におけるパイロットや運転手の人件費は、いずれ人犬費に変わるであろう。
(害夢症、2003.3.6)
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