
トヨタ対ホンダ空中戦 2か月前の『週刊朝日』(2002年7月19日号)が「ベール脱いだ国産小型飛行機開発――トヨタ対ホンダ空中戦」という記事を載せた。
それによると「トヨタ自動車のつくった飛行機が日本時間の6月1日、米カリフォルニア州で初めて大空に舞い上がった。この試験飛行は極秘のはずだったが、地元メディアが報じたため世界中に知れ渡った」というのである。
トヨタとしては「自動車の技術を飛行機に応用できないか調査しているだけ。現時点では飛行機をつくって売ることは考えていません」という。その新技術とは、一つが素材で強くて軽い「炭素繊維と樹脂の複合材」。もう一つが「燃費を下げ、操縦を簡単にする独自の電子制御技術」という。
一方、ホンダの方はロッキー山脈を横断できるような小型ジェット機をめざしている。1993年3月には新素材の「炭素繊維エポキシ樹脂」でつくった6人乗りの双発ジェットが初飛行に成功した。以後3年ほどの間に70時間の試験飛行を終え、現在はもっと出力が高く、燃費の少ないエンジン開発を進めつつある、というのが週刊誌の記事である。
この両社が何の目的で何をしているのか、本当のところはよく分からない。そこで、いくつかの英米誌を探してみた。その伝えるところを総合すると以下のようになる。
トヨタ自動車の試験機は「トヨタ・アドバンスド・エアクラフト」(TAA)と呼ばれる概念実証のための実験機である。初飛行は去る5月31日カリフォルニア州モハービ飛行場でおこなわれた。これをトヨタは単なる「フィジビリティ・スタディ」のためとしている。
この軽飛行機は、ごく普通の形状をした低翼4人乗りのピストン機。前輪式の固定脚をもち、プロペラは2枚ブレードになっている。しかし将来は、市場の動向に合わせて、引込み脚にしたり、6人乗りとするような設計案もできているとか。
特徴の一つは機体が全複合材製で、主翼と胴体はそれぞれがカーボン・ワインディング技術によるワンピース(単体)になっていて、量産する場合は時間もコストも短縮可能ということ。
もう一つは、主翼にオランダのデルフト大学で開発された先進技術の層流翼が使われていること。あるいはトヨタ独自の設計になる高性能の翼ともいうが、確認したわけではない。
エンジンは160馬力のライカミング・ピストン。巡航速度はおよそ260km/h。近く200馬力のエンジンで、速度を300km/h近くまで上げる予定。さらに将来は、新しく開発中の航空用ディーゼル・エンジンを装備する計画ともいうが、いずれも未確認である。
また、最新のアビオニクスを装備して、エンジン・コントロールはレバーひとつで可能とか。
こうした飛行機を、トヨタは量産したり、売り出したりするつもりがあるのか。米誌が問い合わせたところでは、トヨタとして現在アメリカ国内だけで20万機の軽飛行機が飛んでおり、その多くが取り替えの時期にきていることは承知している。したがって、新しい軽飛行機の開発は新しいビジネス・チャンスにもなり得よう。けれども、まだ実際に需要調査をしたわけではないので、何も決まってはいないという。
なお未確認ながら、トヨタがこの航空機のために費やしてきたコストは、これまで5,000万ドル(約60億円)だそうである。
対するホンダの方は、去る6月10日、新しいジェット・エンジンに関する試験飛行を開始した。この試作エンジンは推力860kg。これをセスナ・サイテーションジェット(CJ)に取りつけ、ノースカロライナ州グリーンズボロにあるアトランティック・エアロ社の施設で飛ばしているらしい。試験機となったCJの2基のウィリアムスFJ44-1エンジンのうち1基をホンダ・エンジンに取り替えたというのである。
推力はFJ44-1と余り変わらない。が、燃料の消費効率にすぐれ、エンジン構造を単純化したために推力/重量比が高くなり、FADECをつけて信頼性を高めた。
ホンダは、こうした試作エンジンの飛行試験を進める一方、機体の試作をも進めている。これに上記ジェット・エンジンを取りつけて、来年1月にも初飛行の予定。
この機体は、詳細は不明だが、CJ1と同じくらいの大きさで、キャビン内部は広く、また非常に軽いという。おそらくは主翼と尾翼が普通の金属製だが、胴体は複合材製なのであろう。
ホンダがジェネラル・アビエーションに関心を示すようになったのは1993年頃。
このときホンダはミシシッピ大学と共同で、複合材製の小型ジェット機を開発した。
そして試作機を飛ばし、一連の試験がすんだところで終了した。
冒頭の週刊朝日は3年ほどで70時間の飛行と書いている。これはその当時の写真。いずれにせよ新しい航空機の出現は航空ファンにとって楽しみであり、航空機メーカー以外から出てきた点も面白い。しかも日本のメーカーである。
さらに、それが自動車メーカーであることから、市場目標は車と同様、広く一般大衆になるはずで、成功すれば自家用機やビジネス機の普及にも大きく貢献するであろう。
両社のプロジェクトが研究のための研究から抜け出して、1日も早く実用化されることを期待したい。
(西川渉、2002.9.25)
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