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<ヘリ・エキスポ2003>

シコルスキーS-76と小児救急 

 

 ヘリ・エキスポ会場に Arkansas Children's Hospital と書いたシコルスキーS-76+が展示されていた。アーカンソー小児病院の機体である。


アーカンソー小児病院のシコルスキーS-76C+

 

 この病院はアーカンソー州唯一の小児病院で、新生児から21歳未満の子どもを対象とする医療に当たっている。保有するヘリコプターは2機。いずれも昨年引渡されたS-76C+で、計器飛行も可能。飛行範囲は州内はもとより、周辺の州からも患者搬送に当たっている。機内は患者2人分のストレッチャーと医療スタッフ4人が同乗できる。

 この救急活動は「エンジェル・フライト」と呼ばれ、昨年は2機で1,783人の患者を搬送した。その中でも重要なのが未熟児を搬送で、そのための保育器も搭載している。


アーカンソー救急機に搭載された未熟児搬送用の保育器

 アメリカやヨーロッパでは、救急ヘリコプターの基地に行くと必ずと言っていいくらい未熟児搬送のための保育器を見せられる。それも常に保温されているなど、いつでも使える状態になっている。

 余談ながら米国では近年、未熟児の出生率上昇が問題になっている。米保険当局の2001年の統計では、妊娠37週未満の早産比率が全出産の11.9%に上り、40年ほど前から見て5ポイント近く上昇した。未熟児は、32週未満で生まれると約25%が心身に何らかの障害を生じる可能性があり、32週〜37週でも確率は高い。また未熟児出生の医療費は平均6万ドルで、通常出産の14倍にのぼるという。

 日本でも同じように、近年、未熟児の増加が問題になっている。もとより専門外のことで本当のことはよく分からないが、通常3,000g前後で生まれてくる新生児の体重が2,500g未満の場合、「低出生体重児」とか未熟児と呼ばれる。その割合は6.7%という数字を見た。あるいは、もっと多くて8.1%という数字も見かける。

 とすれば、アメリカの数字よりはいくらか低いけれども油断はできない。というのは未熟児の割合は社会の近代化にともなって高くなる要因が増えてくるからで、一つは出産の高齢化である。女性の社会進出が増えれば必然的にそうならざるを得ない。

 また不妊症治療などで使われる排卵誘発剤の影響や、人工受精で双子や三つ子になることも要因になるらしい。

 さらに女性のやせ過ぎとの関連も、問題になっている。若い女性にやせ願望の広がる現代だが、偏食や少量の食事、外食志向の強さなどが未熟児出産の可能性を高める危険因子だそうである。つまり後々まで身体に影響を残すような過度のダイエットは、正常な出産には良くない。

 それにタバコも良くない。タバコをすう妊婦の未熟児出生率は、すわない人の2倍だという。未熟児に対応する航空機も忙しいはずである。

――重ねて余談ですが、何故こんなことを熱心に書くかというと、この1月から2月にかけて、長男と次男のところで立て続けに孫が生まれたからです。いずれも女児で、幸い正常な出産でしたが、生まれるまでは何もなければいいがと内心不安に思うこともありました。恥ずかしながら、これで私もおじいちゃんということになりました。


アーカンソー小児病院の屋上ヘリポートに着陸するS-76救急機(写真:シコルスキー社提供)

 もうひとつ、日本における最近の問題は小児救急である。小児科専門の医師や病院が足りないし、深夜の幼児の急病にはなかなか対応して貰えない。あるいは的確に対応できる体制がととのっていない。この体制の不備は山間僻地ばかりでなく、東京都ですら同様で、昨年3月、東京都議会からは総理大臣や厚生労働大臣に宛てた「小児救急医療体制の充実強化に関する意見書」も提出されている。

 あるいは、わが子を亡くした母親を中心とする署名運動までおこなわれているが、問題の根本は採算が合わないためだそうである。ヘリコプター救急もそうだが、問題が採算性や経済性にあるとすれば、それは制度を改め、資金を投入することによって簡単に解決できるはず。こんなことで幼児の命が助からなかったとすれば、それは人災というほかはないだろう。

 欧米ではヘリコプターや飛行機が数多く、小児救急に使われている。スイスのREGAなぞは初めての双発タービン機、ベルコウBO105Cを入手したとき、このヘリコプターを先ずチューリッヒ大学小児科病院の屋上に置き、機内にインキュベーター(保育器)を搭載して未熟児の搬送に当たったほどである。1973年11月のことで、同機は「ベビー・ヘリコプター」という愛称で呼ばれた。

 つまりREGAのエア・レスキューはアルプスの遭難救助がきっかけだったが、本格的な救急は赤ちゃんを助けることからはじまったのである。スイス国民がこぞってREGAを支援し、寄付を続けるようになったのも、うなづけるような気がする。

 さて、シコルスキー社は今回のヘリ・エキスポで、米オフショア・ロジスティック社から一挙39機のS-76C+を受注した。うち確定注文は15機で、金額にして1億ドル(約120億円)に相当するが、同社民間部門としては久々のヒットである。エキスポ会場では両社の契約調印もおこなわれた。

 ロジスティック社は元々S-76の量産1号機を1979年に購入したところでもあり、今回の発注分は今年末に完成する製造番号534号機からはじまる。同社は現在、英ブリストウ・ヘリコプター社を傘下に入れて、総計428機のヘリコプターを保有、海洋石油開発(オフショア)の支援を中心に世界各地で事業を展開している。


39機のS-76購入契約に調印するロジスティック社とシコルスキー社

 

 S-76はこれまで530機以上が生産された。うち50機以上が救急に使われている。そのS-76について、シコルスキー社は改良型を開発すると発表した。飛行性能を引き上げ、信頼性を高めるのが目的で、2005年からの実用化をめざすという。

 改良内容は、今のターボメカ・アリエル2S1エンジンを2S2に換装して出力を6%増とし、高温時の飛行能力を高めると共に、ディジタル・エンジン・コントロールを2重にして信頼性の向上をはかる。さらに尾部ローターを静かなQTR(Quiet Tail Rotor)につけ替え、ギアボックスの騒音を減らし、ローターにはS-92の開発から得られた防氷装置を取りつける。

 これでS-76は今後なお最先端をゆくヘリコプターの立場を保持する、というのがシコルスキー社のもくろみである。

(西川渉、2003.2.22)


シコルスキーS-76(シコルスキー社提供)

 

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