<ヘリ・エキスポ2003>

再び、何故そんなに売れるのか

――ロビンソンの秘密(2)――

 

 ロビンソン機が圧倒的な売れ行きを見せるのは、単に値段が安いからではない。安いだけで売れるならば、ほかの小型機も同じように売れていいはずだ。では、ロビンソン機だけが売れる秘密、もしくは秘訣はどこにあるのか。本頁では、先にこのことを取り上げたが、まだ不充分というよりも問題提起だけに終わった。もう一度答えを探ってみたい。 

 

 2月なかばのHAI(国際ヘリコプター協会)年次大会で、ロビンソン機は今回もまた圧倒的な売れ行きを示した。記者会見では、2002年の引渡し数が前年比2割減、売上高が1割減だったというが、今年に入って1か月ほどで90機以上の注文を受けた。うち52機は1週間だけの受注というから驚くほかはない。フランク・ロビンソン氏自信も「息が止まるほどびっくりした」と語っている。

 これにより、今年の同社の生産計画は今の毎週7機から、一時的ではあるが11機に増やすこととし、目下50人の増員を進めている。この調子でいけば年間350機から400機に達するかもしれない。

 同社のこうした受注ブームは、昨年11月FAAの型式証明を受けたばかりのR44レイバンU(4席)が中心で、同機の受注数は昨年6月から最近までに総数124機に達した。

 レイバンUは定評あるR44の最新型で、ライカミングIO-540レシプロ・エンジンを装備する。このエンジンは燃料噴射式の出力強化型で、離陸出力245hp。最大全備重量は100ポンド増の2,500ポンド(1,134kg)となり、ホバリング性能も向上した。速度も4kt増加して、巡航117kt(216km/h)である。

 主ローター・ブレードも改良され、揚力が増すと共に振動が減り、先端には新しいキャップがついて総重量が増えたにもかかわらず騒音は少なくなっている。

 

 こうしたロビンソン社の状況を他の小型機メーカーとくらべて見ると表1のようになる。まさにロビンソン機の独り勝ちだが、同じ2〜3人乗りの小型ヘリコプターで、何故こんなに大きな差が生じるのか。このあたりが解明できれば、第2のロビンソンが実現するに違いない。

 たとえばロビンソン機だけが安いのだろうか。各機の値段は下の表2の通りだが、基本価格を公表しているのはロビンソンだけで、他は要求に応じて見積るとしている。これだけでも、初めから差がついてしまうのではないか。いちいち要求しなければ価格が分からないのでは、顧客は最初の一歩が踏み出せない。やむを得ず、この表はB/CA誌の推定値を借用して作成した。

 結果は、やはりロビンソン機が安い。1席あたりも割安である。飛行速度もロビンソン機が速い。最大速度はR22が190km/h、R44が222km/hだが、他機は174〜181km/hの範囲にある。ただし最大ペイロードは他機の方が大きい。といっても同じ185kmの区間を飛ぶときは、R22の方がシュワイザー300の1.8倍まで大きくなる。

 もう一つ、今ここに比較できるような材料はないけれど、整備性や安全性といった要件もあろう。また販売網や技術支援体制も重要である。

 しかし、こうした成果は一朝一夕に達成できるものではない。もう少し過去にさかのぼって見る必要があるのではないかと思い、ロビンソン氏が1973年ヒューズ社を辞して自分の会社をつくってからの経緯を調べてみた。

 ロビンソン機開発の基本目標は、誰もが自由に空を飛び回る――そのためのヘリコプターを実現することであった。それには安くて、操縦がやさしく、安全でなければならない。というので1975年R22が誕生したわけだが、せっかくヘリコプターができても操縦できる人がいなくては何にもならない。

 そこで販売代理店の契約にあたってはフライト・スクールの開設を条件づけた。のみならず1979年には、当時の物価水準で訓練費を1時間48ドル以下とするよう求めたのである。これでR22は先ず操縦訓練機として普及し、今ではヘリコプターの操縦を習う人の8割近くが、R22で始めるようになった。

 そうなると、操縦をおぼえたばかりの人はロビンソン機を買うようになり、機数も伸びていく。ところが、好事魔多し。自家用操縦者がR22を買ってくれるのはいいけれど、パイロットとしては未熟な人が多いために事故が増えた。1980年代初め、ロビンソン機の事故率はベトナムの戦場と変わらないといわれるほどになったのである。

 しかし、よく調べてみると、事故の4分の3は訓練中の事故で、その半分以上が教官同乗の事故であった。当時は固定翼機の操縦資格を持っていれば、ヘリコプターは35〜50時間程度の経験でも教官になることができた。さらに訓練生の方も単独飛行(ソロ)に出るまでの最低飛行時間が決まっていなかった。

 そこでロビンソンは保険会社と話し合い、付保条件に安全規定を加え、一定の基準を満たしていない事故については保険金を支払わないことにして貰った。その基準とは、R22の操縦教官はヘリコプターの飛行経験が150〜500時間以上であること。同時に教官は、ロビンソン社の4日間の安全研修を受けなければならない。また飛行学校で使う訓練マニュアルやカリキュラムはロビンソン社のつくったものとする。このカリキュラムの中には、教官同乗の下で20時間の飛行経験がなければソロには出さないという規定もあった。

 同時にロビンソン社はR22の主ローター・ブレードを重くしてオートローテイションを安全かつ容易にするなど技術的改良を加えてゆき、自家用オーナーには危険な操作を避けるための具体的な注意事項を記した「安全通知」を送り届けた。

 こうして今ロビンソン機は、高い安全記録を保持しながら、飛び抜けた売れ行きを示すに至った。そこに至るロビンソンの秘密は、ごく当たり前のことだが、ロビンソン氏自身のすぐれた技術力、構想力、販売力、そしてきわめて合理的な問題処理と長年にわたる地道な努力の積み重ねだったのである。

(西川 渉、『日本航空新聞』2003年3月13日付掲載)


ロビンソンR44レイバンU(ロビンソン社提供)

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