<ヘリ・エキスポ2003>

緊急用ヘリコプター

 

 再び三度びヘリ・エキスポ2003の報告である。すでに本頁でご報告したものと重複する部分もあるが、これは『ヘリコプター・ジャパン』誌の求めに応じて、警察、消防、救急など、緊急事態に対応する任務を負ったヘリコプターをエキスポ会場から選び出し、整理したものである。

 

 国際ヘリコプター協会(HAI)の第55回年次大会「ヘリ・エキスポ2003」は去る2月9〜11日の3日間、テキサス州ダラスのコンベンション・センターで開催された。参加した出展企業と団体は469で昨年の15%増、ヘリコプターは筆者の数えたところでは50機前後、そして参会者も昨年より8%多い12,877人という盛況ぶりであった。

 こうしたヘリコプター・ショーに参加した展示機の中から消防、警察、救急など緊急対応(Emergency Response)機を見てゆきたい。

エンジェル・フライトとケアフライト

 救急用のヘリコプターとしては、先ずシコルスキーS-76が目についた。大きく豪華で、救急機としては贅沢な部類に入るが、それだけに充分な医療機器と医療スタッフをのせることができる。ここに展示されたのはアーカンソー小児病院のS-76C+。機内は患者2人分のストレッチャーを搭載、医療スタッフ4人が同乗できる。小児病院として未熟児を搬送するための保育器も搭載している。

 この病院には2機のS-76C+があって、いずれも昨年引渡された。これでアーカンソー州一帯の患者搬送に当たっている。この救急活動は「エンジェル・フライト」と呼ばれ、昨年は2機で1,783人の患者を搬送した。計器飛行も可能である。

 次の救急機はアグスタ・ウェストランド社のA109パワー。地元ダラス・フォトワース地区の救急飛行を担当する「ケアフライト」の機体で、2001年12月に8機が発注され、昨年6月から引渡しが始まったもの。展示されたのは去る12月末に引渡された4番機で、機内には患者2人と医療スタッフ3人を搭載し、パイロット単独の計器飛行もできる。

 ケアフライトはここダラス・フォトワース地区で1979年から救急飛行を開始した。当初はダラスのメソジスト医療センターとフォトワースのハリス・メソジスト病院が共同で1機を使用していたが、徐々にヘリコプターを使う病院が増え、今ではベル222を3機とA109を4機運航、半径270kmに及ぶ広大な地域で100以上のカウンティをカバーしている。

 ほかにビーチ・キングエアとリアジェットを持ち、長距離の患者搬送にもあたる。また救急車も保有するが、これら全ての運航管理をしているコミュニケーション・センターには毎月およそ2,500件の救急要請が入ってくる。

 ヘリコプターに乗組むのはパイロット1人とフライト・ナースおよびパラメディックだが、救急現場では専門医にも匹敵する治療をおこなうことができる。


ケアフライトのA109

 

オクラホマ大学のメディフライト

 ユーロコプター機はEC135、EC130、AS350B2が救急装備をして登場した。このうちEC130B4はオクラホマ大学医療センター(OU MEDICAL CENTER)の「メディフライト」に引渡される機体。EC130が救急飛行に使われるのはこれが初めてだが、メディフライトは同機を2機ロッキーマウンテン・ヘリコプター社からチャーターする。

 メディフライトはこれまでベル206Lロングレンジャーを使ってきた。これがEC130になれば、キャビンは大きくて使い勝手が良くなり、速度は25%増で、航続距離も伸びる。したがってオクラホマ州内のどこからでも救急患者を容易に、迅速に、安全に医療センターへ搬送することが可能となる。

 この医療センターはオクラホマ市内にあり、大学病院を背景とするオクラホマ州唯一の高度救命救急センターで、世界最高水準の医療をおこなっている。小児救急に関しても州内随一の医療が可能で、EC130の広いキャビンは保育器などの搭載を容易にする。病院では新しいヘリコプターの導入によって救命率が上がるものと期待している。

 さらにヘリコプターの周囲で、医療チームの多数の人びとが重たいストレッチャーや保育器の積みおろしをする際、尾部のフェネストロンは普通のテールローターのような危険がなく、静かでもある。また、このヘリコプターは視界が広いので、救急現場への着陸に際しても、障害物があれば容易に見つけることができるであろう。

 メディフライトは1980年10月からヘリコプターの運航を開始した。これまで22年間の患者搬送数は3万人以上。最近はヘリコプターで年間1,200回の出動をしている。特に幼い患者の救命には積極的に取り組んでおり、ここ10年間の実績は未熟児の搬送がおよそ2,300人、小児患者2,200人以上である。ほかに救急車で搬送した小児救急患者が3,700人に上る。


メディフライトのEC130

 

ロビンソンR44ポリス

 EC130はAS350を基本とする単発機だが、胴体幅を大きく広げて6〜8人乗りとなった。それにEC120BやEC135などの開発実績から得られた新技術を数多く採り入れている。

 スターフレックス構造の主ローター、主ギアボックス、アリエル2Bエンジン(847shp)などはAS350B3と同じものだが、尾部ローターはフェネストロンに変わり、キャビンはワイドボディになった。AS350にくらべると幅が1.87mから2.03mへ広がり、容積は23%ほど大きくなった。これで広いキャビンには余裕をもって医療機器やストレッチャーを搭載することができる。

 ローター速度は自動的に制御され、飛行状態に合わせて、最適のエンジン出力が得られる仕組みである。したがって巡航中の騒音は最も小さくなる。エンジン・コントロールは完全ディジタルのFADECでおこなう。

 そのうえ単発機だからコストも安い。1機160万ドルという値段のお陰で思いのほかによく売れている。救急機の運航を専門とするロッキーマウンテン・ヘリコプター社も、10機のEC130を救急用に発注した。救急機だからといって双発機でなければならないとは限らない。

 EC130は警察機としても期待されている。警察ではこれまで多数のAS350が使われてきたが、EC130はその後継機となり得る。搭載スペースの広くなったことから、警察業務のためにいっそう使いやすくなった。また騒音が少ないために、同じ場所で低空・低速飛行を続けるといったことも、付近の住民に余り気をつかわなくてすむ。最近はカリフォルニア州ロングビーチ警察から2機を受注している。

 もっと簡便な警察機はロビンソンR44ポリスである。日本でもおなじみの4人乗りレシプロ単発機ヘリコプターである。価格も34万ドル程度(4,000万円余)と非常に安い。すでに米国内各地の警察から注文を受けており、中国の警察でも2機が飛んでいる。空中パトロールや緊急時の空中指揮、逃走車の追跡、盗難車の捜索などにはこの程度の小型機で充分であろう。

オランダ警察MDエクスプローラー

 単発警察機といえば、アグスタA119コアラも、このほどニューヨーク市警(NYPD)から確定4機、仮2機の注文を受けた。9.11テロのような緊急事態にそなえ、空中パトロール、救急、緊急輸送のほか、将来何が起こるかもしれない「未知の任務」に当たることになっている。また同機はペンシルバニア州警察からも最近2機を受注している。

 なおコアラはP&W PT6-B37ターボシャフト・エンジン(1,002shp)を装備、単発機としては最も強力で、機体も大きく、多用性に富んでいる。

 警察向けの機体はもう一つ、オランダ警察のMDエクスプローラーが展示された。8機を受注しているうちの1機で、同機はドイツ警察からも5機の注文を受けている。

 これらの警察用MDエクスプローラーは、新しい特殊装備が多く、取りつけ技術の開発に手間がかかり、FAAからも補足型式証明を取るよう求められたりして納入時期が遅れたらしい。しかし、結果的には総重量200ポンド(90kg)の増加が認められたという。

 消防機は胴体下面に「ファイア・アタック」と呼ぶ水タンクを取りつけたUH-1Hが見られた。米陸軍からの払い下げを利用して消防機としたもの。アメリカでは消防や警察は民間型式証明のない機体でも使えるので、軍の払い下げ機がそのまま利用できる。

 余談ながら、いつぞやロサンゼルス警察に行ったときも、1機1ドルで陸軍から払い下げて貰ったという2機のジェットレンジャーを見せられたことがある。日本は予算が足りないと言いながら、自衛隊機は絶対に払い下げをしない。わざわざ叩き壊して、屑鉄にして出すと聞いた。上述のR44警察機の安さと簡便さに照らしても、公的機関の現状はどこか贅沢で無駄があるような気がする。


オランダ警察向けのMDエクスプローラー

 

新しいAB139とBA609

 アメリカでは2001年の9.11同時多発テロ以来、本土防衛の意識が高まり、沿岸警備隊の艦船や航空機も強化されつつある。ヘリコプターは1984年以来HH-65(AS365Nドーファン)が採用され、これまでに95機が75万時間の飛行をした。

 ヘリ・エキスポ会場には、その1号機が展示されたが、HH-65は今後なおエンジンをLTS101-750BからLTS101-900に換装強化し、アビオニクスを改善して、HH-65Bとして引き続き活動を続けるという。

 最後に、開発途上の2機種。いずれも将来、緊急対応に使われるはずで、HAI大会の前日ベル社の飛行研究センターに報道陣を招いて公開された。

 ひとつは記者団の前で力強い飛行ぶりを見せたAB139。イタリア・アグスタ社を主体としてベル社が協力しながら開発にあたっているもので、公開飛行を見せたのは試作3号機。今年なかばにはFAAの型式証明を取得する予定である。

 機体は最大15人乗りとかなり大きいが、強力なPT6C-67Cターボシャフト・エンジン(1,680shp)2基を装備して、最大300km/hの高速性能を誇る。AB139も米沿岸警備隊の採用をねらっており、ヘリ・エキスポ会場には同警備隊の塗装をしたモックアップが展示された。

 もうひとつは、史上初の民間型ティルトローターBA609。昨年12月から地上試験を開始した原型1号機で、試運転と走行試験が終わったばかりのところだった。

 BA609は、われわれが見たときは格納庫内で翼を休めていたが、翌日から整備点検をおこない、飛行試験用の測定機器を搭載する作業を進め、1か月後の3月7日に36分間の初飛行をした。つづいて3月11日には2回目、1時間以上の飛行をおこなった。今後は合わせて10時間ほど飛んだのち、機体を分解して詳細検査に入り、年末から2号機と共に飛行を再開するという。まことに慎重な開発日程である。

 ヘリコプター・モードから飛行機モードへの転換飛行は、その後おこなわれる。最終的には原型4機で4,000時間の試験飛行をして、2007年初めまでに型式証明を取る予定。

 こうして今年のヘリ・エキスポは、危機管理手段としてのヘリコプターの実用性を強く印象づけると共に、ロータークラフトの将来への夢を大きく膨らませて幕を閉じたのである。


ティルトローターBA609

(西川 渉、『ヘリコプター・ジャパン』2003年4月号掲載)

 

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