
<ヘリ・エキスポ2003>
戦争前夜の祭典 ![]()
あれから早くも1か月半がたって、今さらヘリ・エキスポでもあるまいと言われそうだが、以下の記事は『航空情報』のために帰国して1週間ほどで書いたものである。しかし月刊誌の場合は、活字になるのに時間がかかるのでやむを得ない。その点はご容赦いただくとして、ここに同誌5月号の記事を掲載しておきたい。
今年のHAI(国際ヘリコプター協会)年次大会「へり・エキスポ2003」は去る2月9〜11日の3日間、テキサス州ダラスのコンベンション・センターで開催された。出展企業は460社を超えて昨年より15%多く、展示されたヘリコプターは筆者の数えたところでは51機。ほかに屋上ヴァーティポートで各メーカーのヘリコプター10機前後が入れ替わり立ち替わり試乗飛行をしていた。入場者数は2日目までで12,270人。前年より1,700人多く、3日間では13,000人を超えたものと思われる。
ここでは以下、メーカー別の話題を見てゆこう。
ベル・ヘリコプター社 地元ダラスに本拠を置くベル社は、大会前日の2月8日に記者会見を開き、報道陣を飛行研究センターに招いて、地上試験中の民間型ティルトローター機BA609の実機を格納庫内で披露すると共に、アグスタ社と共同開発中のAB139の飛行を公開した。
BA609は軍用ティルトローター機V-22オスプレイの不調によって開発日程が遅れていた。しかし、いよいよ4月には初飛行するというのが当日の発表である。ベル社のジョン・マーフィ会長は4月17日とこまかい日取りまで言及し、自信のほどを見せた。
同機は昨年12月6日から試運転を開始、走行試験も滑走路上で50ノットまで出して終了した。そのビデオ映像を見ると、主脚の片足が浮いていて今にも飛び上がりそうなようすである。しかし、これから4月までもう一度機体を分解し、所定の検査と整備をして、飛行試験のための機器を取りつけることになっている。
型式証明の取得目標は2007年初め。目下の受注数は、18か国48社から70機以上とか。
なお、V-22の方は現在5機が試験飛行中。夏までには2機が追加投入される。問題のボルテックス・リング状態(VRS)については高率降下試験が始まったところで、これから分析と解明に進む。今のところは毎分800フィートに抑えているが、徐々に飛行範囲の拡大を進める。一昨年の事故は、おそらく毎分2,300フィートで降下したと推定されるところから、そこまでの激しい操作をしなければ、もともとVRSはヘリコプターにも見られる現象で、さほど大きな問題ではないはずという。
ベル社のもう一つのティルトローター機イーグルアイは、このほど米沿岸警備隊のディープウォーター計画の中で69機の採用が決まった。無人機(UAV)ではあるが、苦難の道を歩いてきたティルトローターにとっては朗報といってよいであろう。
ティルトローター形式の垂直無人機(VUAV)
アグスタ・ウェストランド社 伊英合弁のアグスタ・ウェストランド社は、ヘリコプター・メーカーの中では最も活発で意欲的な活動を展開している。昨年の実績は生産機数が101機、売上高では欧米メーカーの中で最大だったという。
AB139双発タービン機も型式証明の取得が近くなり、BA609と共に、ベル社の飛行研究センターで力強い飛行ぶりを報道陣に公開した。この機体は試作3号機で昨年12月からアメリカで試験飛行を開始したもの。目下アリゾナ州フェニックスのハニウェル社で、プリマス・エピック統合制御表示システムなどアビオニクスを中心としてテストをしているが、この日は特別にフェニックスからダラスへ飛んできた。
その特徴はP&W PT6C-67Cターボシャフト(1,679shp)2基を装備して出力の余裕があり、同級競合機にくらべてペイロードが大きく、高速で長距離を飛べることから生産性が高く、運航費が安い。とりわけ搭載量を減らすことなく、最大全備重量でカテゴリーAの飛行ができる。
設計基準は新しいJAR29/FAR29に従い、最新の技術と実証ずみの技術を合わせて採用している。総重量は6,000kg。キャビンは広くて、パイロット2人のほかに乗客15人または2.5トンのペイロード搭載が可能。最大速度は309km/h。巡航速度は機体重量、気温、高度の如何にかかわらず277km/h以上を維持できる。
主ローターは5枚ブレード。騒音はICAOの基準よりも5デシベル余り少ないという。尾部ローターは地上2.28mの高い位置にあって、安全を期している。
2003年なかばにはイタリア航空局(ENAC)の型式証明を取り、続いてFAAの証明を取る予定。最近までの受注数は80機。量産はイタリアのほか、ここベル社でもおこなうことになっている。
AB139は米沿岸警備隊(コーストガード)のディープ・ウォーター計画にも採用されるもよう。経済水域200海里(370km)くらいまでの海域で警備や救難に当たる。
アグスタ・ウェストランド社からは、すでに2年前、8機のA109パワーが沿岸警備隊に採用されており、米政府との関係は決して疎遠ではない。最近は新たにロッキード・マーチン社と組んで、EH-101の米国への売りこみも進めている。同機はUS-101と名づけられ、米海兵隊の採用を狙い、これに成功すれば米国内に製造会社をつくる計画。そして米大統領専用機という野心的な目標もかかげ、最終的にはヘリコプター・メーカーとして米国内市場でもトップの座をめざしている。
アグスタA119コアラ(向う側)とケアフライトの救急用A109(手前)
ユーロコプター社 ユーロコプター社は昨年が創立10周年であった。1992年に仏アエロスパシアル社と独MBB社が合併したもので、それ以来製品の整理と新機種の開発を進めてきた。今年はそれが一段落し、やや落ち着いたかに見える。
この10年間に新しく登場したユーロコプター機は、EC135(初飛行:1994年)、NH90(95年)、EC120Bコリブリ(95年)、AS365N3(96年)、EC155B(97年)、AS350B3(97年)、EC145(99年)、EC725(2000年)、EC130B4(01年)と広範囲にわたっている。
昨年の受注数はEC120Bが38機、AS350/550が108機、EC130が24機、EC135が48機、AS355/AS555が4機、EC145が2機、BK117が3機、EC155が5機、AS365/AS565が7機、NH90が14機、EC225/EC725が26機、タイガー攻撃機が22機であった。売上高は25.1億ドル。
このうちEC145は昨年から量産機の引渡しがはじまった。最近までに53機の注文を受け、2002年は15機が引渡された。今年は25機を生産する予定。実機がアメリカに登場するのは今回が初めてで、ヘリ・エキスポの期間中も屋上ヴァーティポートで盛んに試乗飛行をしていた。日本ではBK117C2としておなじみである。
なお、ユーロコプター・アメリカ社はこれまで、ダラス近郊に米国向けの機体組立て工場があったが、事業拡大のためにミシシッピに新しい工場を建設する。今のテキサス州の地元がベル社のひいきばかりするといった不満もあるらしい。それでも米国市場では、タービン・ヘリコプターの引渡し数で見る限り。昨年は総数149機のうち71機がユーロコプター機で、シェアにして48%とトップであった。ベルは30%、アグスタ9%、シコルスキー5%、MDヘリコプター4%、その他4%である。新しい工場は今年末までに完成の予定。
高いところに展示されたEC120B
シコルスキー社 シコルスキー社は米オフショア・ロジスティック社からS-76C+について一挙39機の注文を獲得、久々のヒットを飛ばした。うち確定注文は15機で、金額にして1億ドル(約120億円)に相当する。 ロジスティック社は元々S-76の量産1号機を1979年に購入したところでもあり、今回の発注分は今年末に完成する製造番号534号機からはじまる。同社は現在、英ブリストウ・ヘリコプター社を傘下に入れて、総計428機のヘリコプターを保有、海洋石油開発(オフショア)の支援を中心に世界各地で事業を展開している。
S-76C+は初期の機体にくらべて搭載量が400kg以上増加、地面効果外のホバリング高度も50%上がって、生産性が3〜4割ほど高い。
その性能をさらに向上させようというのがS-76改良型で、今のターボメカ・アリエル2S1エンジンを2S2に換装、出力を6%以上増強すると共に信頼性を高める。また尾部ローターを静かなQTR(Quiet Tail Rotor)に換装し、ブレードの翼型と形状を改める。主ローターには防氷装置を取りつけ、ギアボックスの騒音を減らし、脚の耐腐食性を強化するなどの改良点が見られる。
ただし名前は未定で、S-76C++となるかS-76Dとなるか、あるいはもっとほかのものになるか、種々取りざたされている。
もうひとつのS-92は昨年12月17日FAAとJAAのパート29の型式証明を取得したばかりの最新鋭機である。GE CT7-8Aターボシャフト・エンジン(2,520shp)2基を装備して、乗客19人乗り。最大305km/h、巡航280km/h、航続900km以上の高性能を有する。
HAI大会の会場では、ノルウェーのノルスク・ヘリコプター社が2機を発注した。ほかにS-92はクーガー、ERA、亜東航空などから10機の注文を受け、さらに20機相当の契約について民間各社との交渉がつづいているもよう。量産1号機の引渡しは来年初めの予定。
コンベンション会場屋上でデモ飛行をするS-92
MDヘリコプター社 MDヘリコプターの2002年引渡し数は、残念ながら15機にとどまった。内訳はMDエクスプローラーが4機、MD600Nが2機、MD520Nが4機、MD500Eが5機である。2000年は合わせて41機、2001年は28機だったから、大きく減ったことになる。
その原因について、同社ではオランダ警察向け8機とドイツ警察向け5機のMDエクスプローラーの技術開発が遅れたり、トルコ警察から受注した10機のMD600Nの予算問題などを挙げている。たとえばドイツ警察向けの機体は新しい装備品が多いことから、追加型式証明を取るようFAAの要求があった。そのため時間と費用がかかり過ぎたというのがMDヘリコプター社の言い分。
しかしオランダ警察向けのMDエクスプローラーは、すでに総重量を200ポンド増やすことが認められた。こうした問題が解消すれば今年の引渡し数は伸びるはずで、44機の生産を予定している。うち35機は確定ずみで、この1月には3機の引渡しも終わった。
オランダ警察向けのMDエクスプローラー![]()
ロビンソン・ヘリコプター社 驚いたことに、ロビンソン社は今年1月だけで90機以上の注文を受けたという。うち52機は1週間だけの受注だった。ヘリコプターだって安ければ売れるし、車の代わりに使いたいという人も多いのだろう。
こうした受注ブームは、昨年11月FAAの型式証明を受けたばかりのR44レイヴァンU(からす座)が中心で、同機の受注数は昨年6月から最近までに総数124機に達した。
レイヴァンUは定評あるR44の最新型で、ライカミングIO-540レシプロ・エンジンを装備する。このエンジンは燃料噴射式の出力強化型で、離陸出力245hp、最大連続出力は205hpになる。これで最大全備重量は100ポンド増の2,500ポンド(1,134kg)となり、ホバリング性能も向上した。速度も4kt増加して、巡航117ktとなった。
主ローター・ブレードも改良され、揚力が増すと共に振動が減り、先端には新しいキャップがついて重量増にもかかわらず騒音は少なくなっている。用途は計器飛行訓練、報道取材、警察パトロールなど。1機あたりの価格は343,280ドル。
ロビンソン社の2002年実績は引渡し数が前年比2割減、売上高が1割減だったらしい。しかし今年に入って受注数が増えたことから、今後しばらくはヘリコプターの生産数を毎週7機から11機に増やすことにしている。
R44
賑やかな中の緊張感 ヘリエキスポ開催の時期、アメリカはイラクへの攻撃に着手するかどうかで緊張の最中にあった。テレビはテロ攻撃の可能性を叫びつづけ、画面の隅に「テロ・アタック」の文字があって、その下に赤く大きく「HIGH」と出ている。つまりテロの危険度が高いという警告である。
ニュースの中でも、政府の国民に対する呼びかけとして、日常的な水や非常食を3日分買っておくようにとか、停電にそなえて懐中電灯やポータブル・ラジオの準備をして、粘着テープも必要などの放送をしていた。粘着テープは自宅の窓枠に目張りをして、サリンや毒ガス、さらには放射能が家の中に侵入してくるのを防ぐためである。
そう言いながら、後で学者か評論家が登場して、テロの恐れはそんなに高くない。しかし可能性がないわけじゃない、などと分かったような分からぬような解説で締めくくっていた。これでは国民はどうしたらいいか迷うだろうが、まともに受ける人もいるらしい。
というのはHAI大会の最終日、夜の表彰晩餐会ではテーブルの空席が目立った。聞いたところでは、テロの対象がホテル、空港、ショッピング・モールなど人の集まるところだから、ホテルの晩餐会も避ける人が多かったためとか。
戦争が起こるのか、起こらないのか。賑やかな中にも緊張ぎみのヘリ・エキスポであった。
(西川 渉、『航空情報』2003年3号掲載)
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