HELI-EXPO 2002
本当に夢幻だったのか ベル/アグスタBA609ティルトローターが開発中止になるのではないかという報道は数日前の本頁に書いたばかりである。しかし、まだ信じられないような気がする。というのは、わずか一と月前の国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会では、全く逆の動きが見られたからである。
ベル・ヘリコプター社のジョン・マーフィ新会長は、V-22軍用ティルトローターの飛行停止に伴う逆風の中で、BA609の開発作業は遅れてながらも着実に進んでおり、今年なかばには初飛行できると語っていた。
またベル/アグスタ・エアロスペース社のドン・バーバー専務は、V-22オスプレイ軍用機とBA609民間機の違いを強調し、「BA609は乗客の安全を第一に考え、そのうえで民間機としての使いやすさを考慮した設計になっている」と語った。具体的な用途は「チャーター飛行と社用ビジネス飛行が主たるものとなろうが、一方で軍や沿岸警備隊への提案も考えたい」
このときまでの受注数は80機余だが、「実用段階になればもっと注文が増えるものと見られる。とりわけ国境警備や捜索救難のための注文が増えるだろう」。言い換えれば米沿岸警備隊からの注文を期待していたわけで、オスプレイは大きすぎて沿岸警備艇の甲板には着艦できないのである。
今後の試験飛行は原型4機でおこなうことになっていた。1号機は、このときまでに機能試験の6割、耐空試験の4割を終了し、4月から試運転を開始、6月には飛行する予定だった。
エンジンはP&WC PT6C-67Aターボシャフト(1,941shp)が2基。アビオニクスはコリンズ・プロライン21をそなえ、操縦系統は旅客機を除くジェネラル・アビエーション機初のフライ・バイ・ワイヤである。
型式証明はFAAの新しい基準FAR21.17B(輸送カテゴリー)にもとづいて審査されることになっていた。これは回転翼機と固定翼機の両方の基準を混合したもので、将来はともかく、当面はBA609のためにつくった法規ともいえるものだった。
受注数は22か国、42社から約80機である。ただし、実用機の引渡し開始がいつになるかは未定とされていた。
BA609は民間航空界に革命をもたらすはずであった。ヘリコプターからすれば本来の飛行特性を持ちながら、固定翼機の高速・長航続という長所を獲得できるし、固定翼機の立場からすれば従来の飛行機に新しく垂直離着陸の能力が加わるのである。
しかし技術的な課題も多く、その開発には大きな資金と長い時間がかかり、当初の開発パートナーだったボーイング社は途中で脱けることになった。代わりにアグスタ社が参画し、胴体の製造もエアロストラクチャーズ社から冨士重工業へ変わった。こうした開発態勢の変更によって、作業は2年ほど遅れた。
開発資金は、実用段階に達したV-22が2001年から本格生産に入れば、その収入でまかなうというもくろみだった。しかしV-22も飛行停止や試験飛行のやり直しで、年間36機の生産計画は当分なくなった。
もうひとつの問題は、ティルトローターに対する一般社会の受け入れである。軍用機として成功し、順調な運用と生産が続いていれば、それだけで相当な信頼感も得られたであろう。しかるに肝心のV-22が連続事故を起こし、飛行停止になってしまい、改めて安全性の確認をする必要が生じた。BA609への信頼感、安心感までも危ぶまれることとなったのである。
開発作業の凍結を決断した親会社の心中には、こうした経済性、安全性、市場性の問題があったのではないかと思われる。
いっぽうメーカーとしてのベル社の立場からすれば、V-22の不幸な実状はBA609の安全性向上へ生かすつもりであったろう。今後の試験飛行の内容も、V-22の事故調査の結果にもとづいて手直しがおこなわれた。
たとえば前傾を繰り返すナセルの中の油圧系統については、V-22の5,000psi(ポンド/平方インチ)に対してBA609は3,000psiだが、油液の漏れがないことを充分な地上運転で確認することになっていた。この問題が原因になったのは2000年12月の事故である。
またボルテックス・リング状態(VRS)から墜落したと見られる2000年4月の事故にかんがみて、VRSを避け、VRSの兆候を警告し、万一VRSに入ったときはそこから脱出する方法などを、試験飛行で解明することになっていた。
BA609がこのまま夢幻の如く消えてゆくとしたら、まことに残念である。
(西川渉、2002.3.22)
(今年のHAI大会に展示されたBA609の模型)【老婆心】どうも気になるのは、上の写真にも見られるベル社の新しいロゴマーク。今年から使うことにしたようだが、Bellの文字が何だか切れているように見える。よく見ると下図のようにローターの回転面が文字の中央を横切っている。けれども、これはどう見ても腹切りにほかならない。ベル社の自殺行為にならなければいいのだが、先日マーフィ会長に会ったとき忠告しておくべきだった。
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