<ヘリエクスポ2004>
緊急用ヘリコプターを見る 3月なかば、「ヘリエクスポ2004」で発表された将来予測によると、警察、消防、救急などの緊急用ヘリコプターは今後ますます伸びるという。とりわけアメリカでは9.11テロの影響から沿岸警備隊、国境警備隊、本土安全保障局、FEMA(連邦危機管理局)などが機動力を高めるために、ヘリコプターの導入を促進しつつある。
一方では、アメリカ、オーストラリア、地中海地方で大きな山林火災が頻々として起こる。南カリフォルニアではサンタアナという熱風にあおられた大火が乾ききった山林から住宅地にまで及んだり、四国の半分くらいの山林が一挙に消失したりする。こうした山火事の対策にも航空機は欠かせない。
救急業務もヘリコプター市場の一つとして、さらに拡大しつつある。米航空医療協会によると、アメリカの救急機はプログラム(またはシステム)数が242、ヘリコプター拠点数472か所、機体数545機になった。これは昨年10月1日現在の数字で、実数はもっと多いと見られている。
こうした緊急用のヘリコプターを、ヘリエクスポの展示会場から見てゆくことにしよう。
ロビンソンR44警察機 ロビンソン小型ピストン機は、これまで操縦訓練や自家用が需要の大半であった。しかし最近は警察機としてよく使われるらしい。4人乗りの小型ながら、赤外線暗視装置(FLIR),カラーカメラ、サーチライト、ビデオ・レコーダー、警察無線などを装備、夜間のパトロール飛行もおこなう。騒音が小さいだけに、人びとの眠りを覚ますことも少ない。
ラスベガス近郊で飛んでいるR44警察機は、民間ヘリコプター会社に運航を委託している。発砲事件があったときは空から犯人を追跡したり、溝の中に捨ててあった銃をFLIRで見つけ出すなどの実績をあげている。捨てたばかりの銃身は、まだ熱を帯びていたためにFLIRの画面に青白く映ったという。
R44レイバンUのエンジンは燃料噴射式のライカミングIO-540ピストン。巡航速度は最大209km/h、航続距離480km。
なおロビンソン・ヘリコプターは2003年中に422機を引渡し、機数としてはメーカー最高を記録した。このため過去1年間に従業員は300人増となって1,000人を超え、今年はさらに昨年を上回る機数を生産する計画という。
ロビンソンR44
ドイツ警察向けMD902 下の写真は、ドイツのシュツットゥガルト警察向けMDエクスプローラー。同警察からは5機の注文を受けたが、これはその最終号機で、ヘリエクスポの直後ドイツへ向けて送り出された。
なおMDエクスプローラーは昨2003年8機が生産された。
MDエクスプローラー
ロス警察のAS350 ロサンゼルス警察(LAPD)のユーロコプターAS350B2アスター。ロサンゼルスではヘリコプターが地上のパトカー同様、昼夜を問わず市内上空をパトロールしている。展示機の横にいたパイロットの話によると、通常は2機が飛んでいるが午後2時から6時半までは3機が飛ぶ。つまり、犯罪は午後から夕方にかけて多いらしい。
LAPDの現有機は17機。うち10機がAS350B2、5機がベル206B3、あとの2機は米陸軍から払い下げを受けたOH-58とUH-1。払い下げ機はFAAの基準にしたがって整備するが、警察機や消防機は公用機(Public Use)というカテゴリーで、FAAの耐空検査を受ける必要はない。
AS350
PHI向けベル407救急機 ペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)のベル407「エア・メディカル」救急機。PHIはもともとメキシコ湾の石油開発が中心だったが、最近は医師、フライト・ナース、パラメディックなどを雇用して、救急事業も拡大している。
ベル407
ベル427ストレッチ型救急機 ベル社は、今回のヘリエクスポでストレッチ型427の開発計画を明かにした。現用427双発機を基本として胴体を延ばし、主ローター・システムを改良して飛行速度を上げると共に、騒音を減らす。またキャビン内部を広げて後方に医療機器を装備、ストレッチャー2人分を搭載した上に、医師やパラメディックなど2人が乗り組める。写真はその胴体モックアップ。2006年に実用化の予定。
新しい427改良機のモックアップ
救急ヘリコプターEC135 EC135は救急機として人気が高い。ヘリエクスポ会場でもエア・メソッド社が一挙に10機を発注した。エア・メソッドは世界最大のヘリコプター救急事業会社で、救急装備のための機体の改造、運航、訓練など広範な事業を展開している。
運航面ではヘリコプター140機と飛行機20機を保有、救急待機の拠点数は米国内120か所に上る。売上高は2003年の実績が2億4,250万ドル(約260億円)で、前年比86%増となった。純益は510万ドル(約5.5億円)。
昨年秋にはロッキーマウンテン・ヘリコプター社を吸収したため、2004年の売上げは3〜4割増、利益は2割増を見込んでいる。昨年10〜12月の3か月間の患者搬送数は7,085人であった。
EC135
リーカウンティ向けEC145 アメリカで初めて登録されたEC145。フロリダ州リーカウンティ向けの機体で、救急飛行に使われる。テネシー州ナッシュビルのバンダービルト大学附属病院も「ライフ・フライト」救急機として3機を発注した。
EC145は2002年4月から欧州で運航を開始、この3月末には量産50号機が出荷された。緊急機としての用途が多く、ドイツのADACとDRFの各救急機関、スイス・エア・レスキューREGA,フランス国家警察、ドイツ各地の警察などで使われている。
日本では川崎重工業がBK117C-2の呼称で生産していることはご存知の通り。最近までに5機が引渡されている。
EC145
新登場のAB139 ベル/アグスタ・エアロスペース社の新しいAB139。昨年6月イタリア政府の型式証明を取り、年末に量産1号機が引渡された。アメリカで実機が公開されたのは初めてのことで、人びとの注目を集めた。FAAの型式証明は今年なかばに取得の予定。機内は乗客15人乗りと大きく、人員輸送ばかりでなく救急市場もねらっている。
AB139
ロス・カウンティのS-70フィアホーク ロサンゼルス・カウンティ消防局(LACF)は3機目のシコルスキーS-70ファイアホークの導入を決めた。今年末に受領の予定。LACFは現在6機のヘリコプターをもってカリフォルニア州南部の山火事などの消火活動に当たっている。6機の内訳は2機がファイアホーク、4機がベル412と205。
2機のファイアホークは2001年に導入し、2003年のロサンゼルス近郊の大火などで大きな消火実績を挙げた。3番機は、その実績にもとづいて追加購入されるもの。
消火用の水タンクは胴体下面に取りつけられ、容量は3,785リッター。ヘリコプターは水源の上でホバリングしながら、シュノーケルで1分以内に水を吸い込む。そして高速で燃え広がる山林火災の現場に飛び、有効な放水をする。キャビン内部には消防士をのせて火災現場へ送りこむことも可能。
なお3機目のファイアホークは、消火タンクのほかに、救急医療器具や救難用ホイストなども装備する予定。
S-70(シコルスキー社提供)
S-61ファイアキング この大型機は、米カーソン・ヘリコプター社がシコルスキーS-61を改修してつくった消防機。胴体部分を1.25mほど短縮して自重を減らし、主ローター・ブレードを複合材に改め、尾部ローターを5枚ブレードに変更。GE.T58-140-1ターボシャフト・エンジン(1,500shp)2基を装備している。
これで搭載量が1トン近く増え、吊上げ重量は最大5トン。巡航速度も27km/hほど速くなった。とりわけ、同機の最大の特徴は胴体下面に取りつけた消火用の水タンクで、容量は3,785リッター。ここに長さ3.6mの太いシュノーケルを取りつけ、深さ25cmくらいの浅い水たまりでも28秒間で水を吸い上げる。ほかに泡消火剤を入れる113リッターのタンクもつく。タンクの着脱は約30分で可能。
パイロットは操縦桿の上についたスイッチで水タンクの開閉を操作する。この操作と同時に、操縦パネルの上には「準備よし」「放水」「泡消火剤ON」などのランプが点く。
機内には最大15人の消防士をのせることもできる。これで消防士を輸送し、けが人が出た場合は後送も可能。将来は救難用のウィンチをつけることも考えている。
ファイアキングの最大離陸重量は9,800kg、巡航速度240km/h。
消防用のS-61改造機ファイアキング
(「火の王様」というニックネームは、何だか火勢をあおるような気もするが……)
災害は奇襲防衛作戦 災害はいつ何時どこから襲ってくるか分からない。地震、雷、火事、(オヤジは別として)洪水、台風、竜巻はもとより、車、鉄道、船舶、航空などの事故、急病、けが、火傷などの重症、あるいは犯罪事件に巻きこまれることもあろう。
それはまるで宣戦布告のない奇襲攻撃を受けたようなものである。その緊急事態に対処するには、ヘリコプターの機動力が欠かせない。大災害に当たってヘリコプターを使わなければ、その結果がどうなるかは、阪神大震災によって如実に示されたとおりである。
上に見てきた新しいヘリコプターは、そうした危機対策に際して心強い味方になってくれる。ただし機材だけが如何に立派でも、そのすぐれた機能を活かせるだけの体制がととのっていなければ何にもならない。
(西川 渉、『ヘリコプタージャパン』2004年5月号掲載)
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