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BA609とV-22

ティルトローター機の運命

 ベル・ヘリコプター社は民間型ティルトローターBA609について、去る2月なかばのHAI大会でも、2月下旬のシンガポール航空ショーでも、6月中には初飛行させると語っていた。公式の発表ではなかったが、そのような関係者の談話が何度か伝えられた。

 一方、軍用向けティルトローターV-22オスプレイも、いよいよこの4月から試験飛行を再開するというニュースである。そこで、この2つの状況を合わせて1本の記事を試みた。それがほとんど出来上がり、出版社へ渡そうとしたときに、BA609は中止になるかもしれないというニュースが飛び込んできた。

 あわてて書き直し、締め切りも迫っていたので、すぐに編集部へ送りこんだ。それから数日後、再びベル社がBA609はやめたわけではないという声明を出した。

 このあたりのことは本頁でも、その都度書いてきたが、以下の『航空情報』掲載記事はV-22のことにも触れているので、多少の重複はあるけれども、ここに掲載しておきたい。

  

BA609の開発作業を停止

 本稿をほとんど書き終わったところへ、とんでもないニュースが飛びこんできた。民間向けティルトローター機BA609の開発が中止になりそうだというのである。

 もともと本稿の趣旨は、このBA609が今年6月7〜27日の間に初飛行する予定というものだった。その開発にあたっているベル/アグスタ・エアロスペース社が、先日のシンガポール航空ショーでそう語ったと伝えられたのである。もっとも正式発表ではなくて、インサイダーの言葉というし、それも「有利な賭」という表現だから、一抹の不安があったことは確かであろう。

 BA609の初飛行は何度か延期を重ねてきた。最近では昨年末に飛ぶはずだった。そうなれば今年2月のHAI(国際ヘリコプター協会)大会で大々的なお披露目があると思われたが、残念ながら見送りとなった。それどころか、今や最悪の事態が出来したのである。

 手もとに届いた3月15日付けの報道によれば、親会社の「テキストロンがベル/アグスタ社に対しBA609の開発作業停止を指示した」というのである。おそらくこれは最終的な開発中止の前提と思われる。「開発中止」という言葉を最初から使わないのは、共同開発パートナーのアグスタ社との関係が未解決だからであろう。ほかにも、たとえば日本の冨士重工業との間には胴体製造の契約があり、エンジンその他の供給契約にも影響が出てくる。

 ベル社としては、BA609の試験飛行のために原型4機の製作を進めていた。1号機はすでに完成し、飛行前点検も進んで、最近までに4割ほど終了、5月中には全て終わる予定だった。飛行準備に半年近くかかるのは、点検内容そのものが複雑であると同時に、一昨年V-22オスプレイの事故が続いたために慎重を期したこと。またベル社にいるティルトローター技術者の大半がオスプレイ修復に取られ、人手不足をきたしたことなどの理由が挙げられている。

 それでも一応の目処(めど)がついて、6月に飛ぶという日取りまで明らかになり、イタリアや日本を含む国際的な開発体制もととのって、いよいよ本格的な作業がはじまるところだった。注文も世界18か国から約80機を受けていたのである。

 にもかかわらず親会社が作業停止の指示をしたのは、本機の開発が余りにコストがかかりすぎ、余りに複雑で、現今の航空市場では営業的に生き延びてゆくのが困難という見方にもとづく。

 この報道をベル社自体は確認も否定もしていない。が、もしも計画中止ということになれば、これでBA609計画が取りやめになれば、ヘリコプター・メーカーからティルトローター・メーカーへの脱皮と飛躍をめざしていたベル社にとって大きな痛手となることは間違いない。同時に、この計画に大きな投資をしてきた伊アグスタ社との関係も複雑になってくるものと予想される。また日本からも冨士重工業が胴体の製造契約によってBA609計画に参加していた。その影響はどうなるだろうか。

オスプレイは飛行再開

 一方、BA609の前途に暗い影を落としていた軍用ティルトローター機、V-22オスプレイの現況はどうなっているだろうか。同機は2000年12月の事故以来1年4か月にわたる飛行停止の措置が続いてきたが、この4月末というから本誌発売の頃には飛行が再開される見通しが出てきた。

 オスプレイは、これまで4回の死亡事故を起こしている。とりわけ2000年には4月と12月の2度にわたって事故を起こし、合わせて23人が死亡した。これで、いっさいの飛行が停止され、ティルトローターの原理そのものが、何か未知の危険なものではないのかという見方も出てくる始末で、計画打ち切りの危険すらも感じさせるほどであった。

 しかし、この飛行停止の間、オスプレイに関しては2種類の調査検討がおこなわれた。ひとつはNASAのエイムズ研究センターによる安全性の理論的検討で、オスプレイの事故はティルトローターの原理や本質に起因するものではないことが明らかにされた。もうひとつは国防省のブルーリボン・パネルで、もっと技術的、機構的、実務的な調査検討を加えたものである。

 これら2種類の結論は、いずれも事故原因となった不具合を取り除き、試験飛行によって安全性が確認できれば、ティルトローターは実用可能というものだった。そこで国防省は昨年12月、事故調査の結果にもとづいて機材上の不具合を改修し、安全性確認のための試験飛行を再開してもよいという承認を出した。

 試験期間は18か月間。再開にあたってはエンジン・ナセルの改修をおこなう。これは2000年12月の事故原因がナセル内部の油圧系統と電気配線の束がこすれ合って油液の漏れを生じ、油圧が低下したことによるという結論にもとづくもの。

 改修の内容は配管を強化し、配線との間隔を広げ、整備点検をしやすくする。また油圧系統の配管のクランプには摩耗を防ぐコーティングを加える。クランプ自体も頑丈な設計に改め、配管の位置がずれるような振動をなくす。といっても油圧系統の何もかも変更するわけではない。圧力は前と同様、約5,000ポンドの高圧であり、配管はチタニウム製である。ただしスワッシュプレート・アクチュエーターへの接続部分は肉厚にして強度を高める。またナセルの整備点検を容易にするため、点検口3か所を増やし、不具合が生じても直ちに発見できるようにするといったことになる。

 これで問題部分の信頼性が向上し、V-22の安全性が高まって、実用可能となるはずである。実際、技術者たちは信頼性が飛躍的に良くなると考えている。また機体重量も多少増加するはずだが、材料を軽量化して、できるだけ重量増加を抑える。ここで多少の増加があっても、V-22は今のところ設計目標の重量基準を下回っているので、当初設定された限界を超えることはないと見られている。

再確認のための試験飛行

 オスプレイのもうひとつの改修は操縦系統の電子的なソフトウェアの修正である。その内容は、高速飛行、急旋回、急降下など何らかの危険な飛行状態へ近づいたときの警報システムを改善するというもの。このソフトはすでに机上テストやトラブル・シューティングを経て、2月には完成したはずである。

 こうし改修を受けたオスプレイの飛行試験は、まず海兵隊の2機のMV-22によってはじまる。地上試運転を経て、飛行機モードで飛行したのち、ヘリコプター・モードでホバリングをおこない、さらに上昇性能をチェックする。また、急降下試験によってブレードの失速条件を確認する。こうしたことからV-22がボルテックスリング状態に遭遇したとき、どのような場合に失速するかを明確にする。

 これらの飛行内容は、実際には分かっていることばかりで、改めて新しい事態が発生するとは思えない。けれども、それならそれで再確認しておく必要があるという考え方である。

 また着艦試験もおこなう。すでに海兵隊で充分におこなわれていることだが、それも確認することになっている。

 着陸のための低速ホバリング試験もおこなう。このときローターの気流が地上の砂ぼこりを巻き上げるはずだが、戦場の第一線ではしばしば起こることである。さらに戦闘状態を想定した動き、編隊飛行、燃料補給なども試験項目に加える。

 そして最終的には新しい作戦能力に関する試験にまで進む。たとえば地上攻撃と自己防衛のための新しい機銃の装着。また戦場での物資の積み卸し、レーダー警報システム、氷結気象状態での飛行などが含まれる。これらの試験飛行は、のちに3機のMV-22も加わって、総計1,800時間に及ぶ予定だが、これで全く新しいオスプレイが誕生するというのが関係者の考え方である。

ボルテックスリングの回避法

 米空軍も今年7月からCV-22による試験飛行を再開する。安全性の確認と飛行性能の拡大に重点を置き、特にボルテックスリング状態(VRS)については1年間にわたって高速急降下試験をおこなう。これでVRSの特性を確認し、VRSを避け、VRSから脱出するための標準的な操縦要領を確立する。

 VRSは2001年4月の事故原因となったものである。米空軍によれば、VRSに入らないための降下率の限界は飛行速度がはやくなるにつれてせまくなる。したがって飛行可能範囲をもっと厳密に定める必要がある。たとえば前進速度45kt、50kt、60ktのとき、降下率はどこまで許容されるか。そのあたりの数値を明確にしておかねばならない。

 また誤ってVRSに入った場合、ティルトローターの場合は独自の、しかも簡単にVRSから脱出できる技術がある。それはナセルを前にちょっと倒すことで、数秒後には安全な飛行状態に戻るという。オスプレイのナセルは1秒間に8°動く。それだけでV-22はVRSから脱け出せるはずだという。

 もうひとつ、オスプレイはVRSに入ると、操縦桿に特有の振動が発生する。ちょうど固定翼機で主翼が失速すると操縦桿ががたがたするのと同じで、そのことが分かっていれば、兆候が生じると同時にナセルを傾けて脱け出せばよいのである。

 こうした考え方を、米空軍はこれから実機によって試験し、確認してゆくことにしている。

山岳戦に適したMV-22

 それにしても、オスプレイの実用化を進めてきた海兵隊にとって、この最新鋭機をアフガン山岳地の攻撃に使えなかったのは、絶好のチャンスを逸したことになるかもしれない。アフガニスタンの情勢は、ビンラディンの生死がはっきりしないけれども、暫定政権が発足して復興の緒に着いたかに見える。しかしアルカイダ掃討戦は、聖戦の完遂をめざす周辺諸国の戦士たちが続々と応援に駆けつけ、いつ終結するのか見通しが立たなくなってきた。

 このときに当たって、ティルトローター機が使えないのは、その採用を決めた米海兵隊や空軍にとっては地団駄踏む思いだったであろう。本来ならば、このような作戦にこそ、オスプレイは本領を発揮するはずだった。前進基地もないような戦線で、ヘリコプターでは到達できないような未知の遠隔地こそ得意とする舞台である。もともとティルトローターは、そういう作戦行動を想定して設計されているのである。

 やむを得ずヘリコプターを使ってはいるが、3月4日にはアメリカ軍特殊部隊のMH-47ヘリコプターがロケット弾で撃墜され、少なくともアメリカ兵8人、アフガン同盟軍7人が戦死、約40人が負傷した。それ以前にも何機かのヘリコプターが失われた。少なくとも2機の事故が公表されているが、そのうち1機は悪天候が原因だった。11月2日に事故を起こしたMH-53Mがそれで、氷雨の中を長いこと飛んでいて操縦不能におちいったというのがパイロットの証言である。しかしオスプレイならば、こうした条件の中を飛んで、任務を達成することができたにちがいない。

 というのは、アフガニスタンのきびしい気象条件に関する限り、オスプレイの設計基準は1時間200ミリを超えるような豪雨でも、毎秒23mの強風でも、直径2.5cmのひょうでも耐えられるようにできている。またV-22は1uあたり97kgの積雪に耐え、−20℃の寒冷時でも飛べる防氷装備をもっているからである。

V-22にも代替機を検討

 V-22オスプレイは、これまでに19機が米海兵隊に引渡された。ほかにベル社アマリロ工場では10機余りがほぼ完成し、4機が最終組立て段階にあり、8〜9機分の部品製造もベル社とボーイング社の両方でおこなわれていた。しかし未完成または半完成機は、これからの試験飛行による再確認が終わるまで出荷されないことになる。

 本来ならば、V-22は2001年度から本格生産に入り、年間36機が軍に納入されるはずだった。しかし、今まったく逆のことになって、メーカー側は予定していた収入がなくなったばかりでなく、再確認のための試験飛行をするために多数の技術者が取られることになった。

 BA609の開発作業が遅れたのも、このあたりに一つの理由があろう。結果して作業中止にまで追い込まれたのである。

 ところが何たることか。ここまで書き終わったところへ、再びティルトローターの前途に追い打ちをかけるようなニュースが飛びこんできた。米国防省がV-22オスプレイの代替機の検討をはじめたというのである。

 米国下院の小委員会でオルドリッジ国防次官(調達・技術担当)がそう発言したらしい。それによると、たとえば海兵隊向けMV-22は本来、現用CH-46、CH-53Dなどの代替機として計画されたものだが、いまだに技術上の疑問が晴れないところから、逆にCH-53改良型、S-92、UH-60、さらにはEH-101といったヘリコプターで代替してはどうかというのである。

 そして今後1年半の試験飛行の結果、もしもV-22の安全正、信頼性、実用性が実証されなければ計画を中止すべきであると。

 ティルトローターの今後の運命はどうなるのであろうか。 

 本稿執筆後。ベル・ヘリコプター社から「BA609計画は中止になったわけではない」というジョン・マーフィ会長の声明が発表された。詳細は次号でお伝えしたい。

(西川渉、『航空情報』2002年6月号掲載) 

【関連サイト】
 <緊急レポート>どっこい、BA609は生きている2002.3.25)
 
<HAIレポート>本当に夢幻だったのか2002.3.22)
 
<緊急レポート>BA609ティルトローター開発中止か(2002.3.18)

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