
<AHSインターナショナル大会>
ヘリコプター工業界の課題 去る6月7〜10日、ワシントンに近いボルティモアでAHSインターナショナル(国際ヘリコプター学会)第60回大会が開催された。この会合でさまざまに論じられたのがロータークラフトの新しい開発に関する問題。話題の中心はほとんどが米軍向けのヘリコプターであったが、そのいくつかを見てゆきたい。
新LUH計画が浮上 米ヘリコプター工業界の現状は、先にコマンチ開発計画が中止となり、ティルトローター・オスプレイの量産移行がいまだに本格化していない。他にもいくつか開発構想はあるが、なかなか具体化しないなど苦しい状況にある。
構想の具体化に向かって最も近い位置にあるのは、新しいLUH計画。コマンチ武装偵察機の開発中断によって、米陸軍の予算には多少の余裕ができた。そこから、かねて構想中の新LUH計画が浮上してきたわけである。
LUHは現用UH-1とOH-58の後継機となるもので、戦場での戦術輸送や連絡、指揮などにあたる軽多用途ヘリコプター。コクピットには最新の電子機器を装備、飛行計器や航法、通信、作戦などの情報が多機能ディスプレイに表示される。総重量は2トン程度。ただし、開発要求や設計仕様などはまだ決まっていない。それでも2008年10月末までに実用化し、2011年までに322機の配備が想定されている。
この新LUHに対して、ボーイング社は早くもMH-6を提案している。既存のOH-6の機体を基本とし、MD-600のローターおよび動力系統の改良型を利用するもので、実証ずみの技術だから信頼性も高いという。欧州からも、アグスタA109やユーロコプターEC635の提案が出ている。
もっともコマンチの計画中断で米陸軍の予算に余裕が生じたといっても、その中断に伴うメーカーへの補償交渉がなかなか進まない。そのため今年10月に予定していた開発着手は来年にずれこむ恐れが出てきた。
A109LUH候補機
運航コスト半減の要求 米ヘリコプター工業界に対するもうひとつの厳しい課題は、米海兵隊から提議された次世代CH-53Xの問題。現用CH-53Eはベトナム戦争の体験にもとづいて改良が繰り返され、搭載量12トンの能力をもって一応の技術水準に達した。アフガニスタンやイラクの戦場でもそれなりの働きを見せたが、生存能力(サバイバビリティ)は必要最小限のレベルにとどまり、装甲板などの防御能力もなく、ゲリラの攻撃で多数の機体が簡単に撃墜されてしまった。
また後部のバルクヘッドが脆弱で、飛行6,120時間ごとに交換しなければならない。1時間あたりの運航コストは15,000ドル(約160万円)にもなる。
新しいCH-53Xが、もしも実用化されるとすれば、これらの問題を解消し、たとえばサバイバビリティはもっと向上させる必要がある。動力系統も信頼性を高め、旧来のアビオニクスは最新のものに改めなくてはならない。部品類の耐久性も1万時間以上は必要だし、飛行性能を上げて、作戦行動半径は今の2倍以上。しかも運航コストは半分くらいまで下げる必要があるという厳しい要求が論じられた。
海兵隊からは、さらに、これまで進めてきたベルAH-1Yの開発を中止するかもしれないという問題が提起された。というのは、このヒューイ改造機は開発作業が予定より2年以上も遅れ、今後の見通しが立たない。2か月くらいのうちには中止の決断が出るかもしれないという。その代わり、海兵隊としては全く新しい機種の開発をベル社に発注したいという意向をもっている。これは現用UH-1N双発機に代わるものである。
ボーイングHLH構想の提案 以上のような需要者側の呼びかけに対して、メーカー各社のトップは異口同音に「技術革新に努力して、いっそうすぐれた製品を提供する」と語った。
シコルスキー社の話題は新しいS-92が中心。ユーロコプター社はコマンチ計画がなくなった今、タイガー攻撃機こそは唯一の代替機であると強調した。
ベル社はティルトローター機の安全性確認試験が順調に進んでおり、間違いなく実用化されるであろう。民間型BA609も間もなく試験飛行を開始すると語った。
アグスタ社は、これまで英伊半分ずつだったアグスタウェストランド社の資本がイタリア資本のみとなった。その勢いを駆って、米国市場への進出もいっそう拡大したいという強い意欲を示した。米国での競争入札があれば必ず参加し、チャンスを逃すようなことはしないと言い、「競争は業界にも国家にも健全さを保つ源泉」としている。
ボーイング社は超大型輸送用ヘリコプター(HLH)構想を提案した。ペイロード20トン以上で、航続550kmだが、その開発のためには殊更新しい技術開発は不要。これまでに進めてきた開発研究の成果と実証済みの技術によって直ちに作業着手ができるという。
ロータークラフトは国防上重要 今大会で大方の賛同を得られた認識は、ロータークラフトが国防上、戦闘機や爆撃機、もしくは軍艦や戦車に劣らず重要であるということ。したがって、その開発研究のためには年間3,000〜5,000万ドルの予算が計上されるべきだということだった。
現今のようなテロ、麻薬取引、核拡散といった国家的な危機の問題を考えても、それに対処するにはロータークラフト利用の防衛策をもう一段高い水準へ引き上げる必要がある。それには長期にわたる研究開発作業が必要。たとえばヘリコプターの運航費も今の半分くらいまで引き下げるといった具体的目標をかかげて取り組まなければならない。あるいは、もっと信頼性が高く、安全で、騒音の小さいロータークラフトを実現させなければならない。こうした目標が達成できなければ、ロータークラフト自体の命運も怪しくなってくる。
そのためにはヘリコプター工業界が自らの将来について、今のままではじり貧にもなりかねないことを自覚すべきである点も強調された。この時期、ロータークラフトの世界は軍用分野といえども決して安泰ではない。それだけに需要者からも供給者からも、相互に厳しい要求が交換された。
(西川 渉、『WING』紙2004年8月11日付掲載)
(表紙へ戻る)